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手しごとのセラピー効果に魅せられ、本を先生に立体刺しゅうの世界へ。思いもかけず自ら魅力を発信するチャンスが!

立体刺しゅうに魅せられ、手芸本を「先生」に作品を作り続けて3年。出版社主催のコンテストで最優秀賞を受賞し自らの本を出版する準備に励まれているnana_embroidery_works(以下nana)さん。 手しごと、さらには立体刺しゅうと出会ったきっかけ、その魅力、今後への思いなどをお聞きしました。

「わからないこと」があるからこそ楽しい!手しごとの「セラピー効果」にハマる。立体刺しゅうの魅力を本で知りオリジナル作品づくりへ

nanaさんが手しごとの魅力を知られたのはいつですか?どんなところに夢中になられたかも教えてください。

最初に手しごとの楽しさを知ったのは、アメリカで暮らしていた頃に始めた洋裁がきっかけです。住まいの近くにちょっと気になる生地屋さんがあったんです。娘が幼稚園に通い始めて少し時間ができたこともあり、気に入った生地で娘に洋服を作ってあげたいなと思ってミシンを購入しました。そう、それまで、まったくやったことがなかったんです。洋裁を教えていらっしゃる日本人の先生を見つけて糸の通し方から習いました。教室に何度か通った後は、日本から取り寄せた手芸本が「先生」でした。本を読み解きながらやってみると「袖って、どうやって付けているんだろう?」「ファスナーは?」などなど、疑問が湧いてくるのですが、それを解決 していくのが本当に楽しくて・・・・・・。

本をサラッと見るだけではすぐにはわからないこともたくさんあるのですが、日本の手芸本には作業前と作業後の図がとても丁寧に説明されています。 「ここまでヒントをいただいているのだから、ひとつひとつ自分で紐解いていけばいいじゃない?」と思ったんです。「わからないこと」があり、本を先生に自分で紐解いていくプロセスそのものが楽しいんです。ネットで調べればすぐに解決するかもしれないけど、そうしてしまうのはもったいない(笑)。ネット検索は最終手段だと思っています。そういったプロセスによって自分が元気になることを体感し、私にとって手しごとは「セラピー」のようなものだと思いました。


立体刺しゅうを始められたきっかけを教えてください。

刺しゅうに出会ったのは、日本に帰国した後です。娘が通っている幼稚園の先生にエプロンを贈ることになり、私は本体づくりを担当したんですが、別の方が刺しゅうをされているのを見て興味を抱き書店で刺しゅうの本を手に取ったんです。その中でひとめで魅了されて購入したのが、刺しゅう作家である佐藤ちひろ先生の本でした。先生の作品は、どれもセンスが良くて物語性があって、こんなに多彩でステキな世界を刺しゅうで表現することができるんだと衝撃を受けました。

そして、その本の中に立体刺しゅうのクマさんの作り方が掲載されていたのです。立体感のある刺しゅうなんて見たことがなかったですし、綿を詰めて高さを出すといった手法も初めて知り「すごい!」と感動。挑戦することにしました。ステッチの名前などわからないこともあったんですが、洋裁と同じようにひとつひとつ紐解いていくと、なんとか完成させることができたんです!これをきっかけに、佐藤先生や樋口愉美子先生の本を「先生」に、自分でデザインしたものを立体刺しゅうで作るようになりました。

作品作りに挑戦するなかで基本のステッチを習得する必要を感じたので、通信講座で学びました。全部で230種のステッチを刺して提出すると裏面もチェックされて合否を出してくれるカリキュラムだったのですが、ステッチの図から読み解いて、こういうふうにするんだなと考えて刺していくのはとても楽しかったですし、合格した時はとても嬉しかったです。この時学んだ技法の中で気に入ったものをオリジナルの作品に使うなど、できることが少しずつ広がっていきました。また、作品を通じて他の方と交流できればと思い、インスタグラムに掲載したところ、海外を含め同じ趣味を持つ人からの反応があり、そうしたことも刺激的で楽しくて、夢中になっているうちに、あっという間に3年が経ったという感じですね。

nanaさんにとって、洋裁にはない刺しゅうの醍醐味とはどんなところですか?

洋裁も刺しゅうも、自分を元気にしてくれる「セラピー」のようなものであることには変わりはありません。だからこそ、その時間が長く続いてほしいんです。その意味で、2、3日で出来上がる洋裁よりたっぷり時間がかけられる刺しゅうに魅了されたのだと思います。さらに、刺しゅうは、材料などが少なくてすむので、「燃費」がいいんですね(笑)。もうひとつ、大きいのは、刺しゅうなら手しごとを本格的に学んでいない私にも「オリジナル」が作れるということ。洋裁の場合、オリジナルを作るとなるとパターンを引かなければなりませんが、この部分を学ぶのは私にとってかなりハードルが高かったんです。

もちろん、刺しゅうに取り組むようになって洋裁をやっていてよかったと思うことはあります。それは、刺しゅうしたものをお洋服や小物など「使えるもの」に仕立てることができるということ。長く続けてこられたのは、こうした点も大きいと思います。


コンテストという目標があることで意欲がアップ。思いもかけず、「先生」だった本を出版する運びに。自身を導いてくれた日本の手芸本のクオリティーを守りたい

マガジンランド社の手芸&クラフト展で最優秀賞を受賞されましたが、コンテストに挑戦したきっかけ、受賞の感想を教えてください。

同じ趣味を持つ人のブログなどでコンテストの存在を知りました。3回目の挑戦で最優秀賞をいただくことなり、正直、自分が一番驚いています。初めて挑戦した時は、「目標」があるとより楽しいかなという軽い気持ちでした。すると、幸いなことにその作品が一次審査を通り、展覧会に展示されることになったんです。スケジュールを決めて作る、そして、その作品が人に評価していただけるということの喜びを知り、毎年挑戦するようになりました。

今回賞をいただいたバッグは、1年目、2年目、そして今回と応募するたびにできることが広がってきたので、それを全部注ぎこみたいという思いで製作しました。テーマは「花」だったのですが、花以外のモティーフも盛り込もうとブローチにして飾り付けるなど工夫をしました。作っているプロセス自体が本当に楽しく、満足感もあったんですが、まさか、こんな賞をいただけるなんて・・・・・・。最優秀賞を受賞すると、本が出版できるということでしたので、自分がそんな立場になれるなんて想像もできなかったんです。だから、受賞を知らされた時は、本当に「ウソでしょ!」という感じ(笑)。さらに本を出版すると聞いて、自分もそうですが、家族も「信じられない・・・・・」といった反応でしたね。

現在、出版準備中ということですが、どんな本にしたいとお考えですか?今後の夢についても教えてください。

洋裁も、刺しゅうも、私にとって手芸本が「先生」でした。パタンナーさん、刺繍作家さんの出している作り方が載った本が出版されていなければ私は絶対に作れなかったと断言できます。現代日本の手芸本は、掲載されていることをしっかりと読むと必ず作品が仕上げられる。本当にクオリティーが高いと思います。だからこそ、思いもかけずそうした本を作る立場になり、身の引き締まる思いがしています。

私がそうだったように、本をしっかり読めば必ず作品が完成できるようにしたいのです。今まで、いわば「目分量」で作ってきたものを、きっちりと細部まで記録して再現できるよう試行錯誤しています。また、刺しゅうしたものを小物などに仕立てるためのプロセスも盛り込んでいけたらと思っています。これは自分にとって最初で最後のチャンスだと思って、これまでSNSのコメントで質問されたことも含めて自分の技術を全公開したいですね。

今後は本の出版を通じて、ぜひ同じ趣味を持つ人たちと交流を深め、一緒にお茶を飲みながら刺しゅうをするような時間を持ちたいですね。また、ひとりの作りてとしては、色をたくさん使って壁に飾る絵のような作品を作りたいです。多色使いでセンスのいい作品を作るのは難しいのですが、挑戦してみたいと思っています。


元気をくれる刺しゅうの時間のためにランニングや筋トレも。自分なりに工夫をして手しごとをより楽しんでほしい

最後に、手仕事を楽しまれている方、やってみたいと思われている方にアドバイス、メッセージをお願いします。

私は、オリジナルづくりの第一歩は「マネ」からだと思っています。まず、手芸の本を多読することはオススメですね。また、私のように手しごとによって元気になれる方もいらっしゃると思いますし、てといとを見られている方はきっとそうではないでしょうか。家事や仕事などで多忙な日々の中でも、ちょっとした工夫でより気軽に手しごとの時間が楽しめると思います。

例えば私は、刺しゅうをすることのハードルを下げるために、道具をできるだけコンパクトにまとめて籠に入れどこにでも持ち運べるようにしていますし、アイロン台は特定位置を決めて置いています。こうしておくと、ちょっとしたすき間時間に、リビングでお茶をしながら作業を進めることができます。

また、作業をしているとどうしても肩が凝りますよね。私は肩こりが筋力の無さからきていると聞き、ランニングと筋トレをしています。朝30分から40分走ると精神も安定しますし、その後に刺しゅうすると目も頭も疲れにくいんです。走るのが苦手という人は一日5000歩程度のウォーキングでも良いと思います。身体を動かすことは手しごとをより楽しむためにもおススメです。寝る前の筋トレもすっかり日々の習慣になりました。プランクポーズと呼ばれるシンプルなものですが、1分程度から始めて、2分、3分と少しずつ長い時間できるようになって、肩の筋力も付いてきた気がします(笑)。

皆さんも、手しごとを日々の暮らしの中でもっと快適に、もっと深く楽しめるよう工夫して続けていただけたらと思います。

nanaさんのお話を聞き、手しごとのプロセスそのものにセラピー効果があると共に、作品を通じて他者と交流したり評価されることで意欲がさらに上がることを改めて知ることができました。本日は、ありがとうございました。

※2020年05月時点の内容になります。

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プロフィール
nana_embroidery_worksさん
ご主人の仕事でアメリカに暮らしているときに洋裁を始め、手しごとの魅力を知る。日本に帰国後、佐藤ちひろさんの本で立体刺しゅうと出会い、その多彩な表現世界に魅せられオリジナル作品づくりを開始。立体刺しゅうを始めて3年、マガジンランド社主催の手芸&クラフト展に出品した作品が最優秀賞を受賞。現在、副賞である本の出版に向けて、日々、作品作りに勤しんでいる。作品を発信しているインスタグラムのフォロワー数は1万人以上。(プロフィールは記事掲載時のもの)
てといとのプロフィールページはコチラ
詳細URL
nana_embroidery_worksさんインスタグラム
画像・テキスト資料出典
画像は全てnana_embroidery_works

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