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「編み物」と「あらゆるモノ・コト・ヒト」をつなぐ! 手芸の世界観をガラリと変えてくれる開拓者

小説家、文筆家、NPO法人の代表、編みキノコ作家?! 様々な活動をしている横山起也さん。メディアで見かけた方も多いと思います。三代続く手芸一家に生まれ、多彩な切り口から編み物をはじめとした手芸にアプローチする横山さんの活動は、日本のみならず世界からも認められている傑出した存在です。手芸愛好者も、これから始めたいと思っている方も、手芸の見え方や楽しみ方が拡がる!横山さんならではの面白い視点や、素敵な言葉が満載です。

世界中で手芸に対する視線が高まっています!

僕がここ数年の活動で感じるのが、「世界中で手芸に対して注目が集まっている」ということです。

――えっ世界中で、ですか?!

そうです。だから、今、手芸を楽しんでいる人も、これからやりたいと思っている人も、編み物、針仕事など手芸をやっている人は「時代にノっていて世界的に注目されていることをやっている」って胸を張っていいと思います!
パンデミックでマスクが不足した時に、「日本にはマスクを手作りした人がたくさんいて世界が驚いた」っていうエピソードがありましたよね。「売っていなければ作ればいい」という発想は、手芸を楽しむ人ならでは。SDGsの高まりもあって、世界中で手作りに対する価値が見直されています。

――横山さんは、おばあ様からお母様とつながる大きな編み物教室を営む一家に育ちました。編み物に関わるお仕事に就くのは必然だったのでしょうか

祖母や母は自分たちと同じような編み物との関わり方を僕にさせるのは難しいと諦めていたようです。とはいえ大きな教室で育ったので遊び場は教室。親に編み方を教わったり編み機をおもちゃにして遊んだり。だから自然と興味を持つようになって、今から考えるとマニアックな技法についても身につける環境に恵まれていたのです。
大学院で学んだ「文化史」という学問分野の考え方をつかって、在学中に伝統のセーターについて文章を書き溜めました。編み方ではなく編み柄の歴史や文化を調べた内容だったのですが、それをまとめて書籍を出版することもできました。調べれば調べるほど面白いことが分かって、手芸/ハンドメイド系の物書きになろうとも考えたのですが、言葉を紡ぎだすのって体力を使いますよね。1冊出版した時点で体を壊してしまいました。
以来、手芸に関わる活動をしばらく休んでいたのですが、東日本大震災後に母から『編み物による被災地支援活動』を手伝って欲しいと頼まれたのです。「編み物で支援ができるのか?」と半信半疑のまま福島県を訪れたのですが、現地の人たちが、編み物で自らの心を癒している姿や、他者と一緒に編むことを通してコミュニティが生まれていることを目の当たりにし、手芸が持つ「力」に僕自身打ちのめされました。それが僕の人生の転機になったのです。

手芸/ハンドメイドは意味のあるものだから、伝えていかないとダメだと思います。

それを機に「手芸を伝えたい」と思うようになり、社会問題や歴史と手仕事を結びつけて執筆をしたり、イベントやワークショップを開催したり、異業種とのコラボレーション企画等を通して、様々な角度や切り口から「手芸」を伝える活動をしてきました。スタートしてみたら、僕みたいな活動をする人が他にいなかったこともあって、次第に様々なオファーをいただくようになりました。

――最近は本の執筆もされていて、編み物をするお侍を主人公にした時代小説や、「手芸とは何か?」を題材に様々な分野の識者たちとの対談集を出版されています。

小説は、下級武士がメリヤス編みをしている江戸時代の1枚の挿絵を見て「時代小説を書こう!」とひらめきました。対談集はシリーズで今のところ2冊出ていますが、手芸の政治的な意味や歴史的な意味とか、作り手である作家さんの話とか、いわゆる「作り方」はほとんど載っていないのです。作り方が載っていない手芸本なんて売れるのか?という意見もありながら作り始めたのですが、できてみると、ご高評をいただき、シリーズ化されるまでなりました。

――確かに斬新ですね。どの対談も様々な要素から手芸をとらえることができますし、知識欲もそそられて楽しめる内容です。

先日も、最近編み物を始めたというある編集者の方が、日本では紹介されていない「外国の編み方のコツ」を翻訳した本を企画して出版されたのですが、その編み物に対する切り口が面白い!僕の著作だけでなく、新しい切り口で手芸を扱いたいというニーズが増えている証拠だと思います。 

また、出版に限らず今の手芸の世界には、他の業界や企業で経験を積んだ人がたくさん参入してきています。当然、商習慣や感覚が違うこともあって齟齬が起きていますが、時代は大きく変化しているので、既存のビジネスモデルでは通用しない時代を迎えている。どの業界でも言えることですが、手芸業界もゆるぎない専門性を残しつつも柔軟な変化が求められているのが現状です。ビッグビジネスとはいかないかもしれませんが、手芸は昔から愛され培われてきた最強コンテンツです。これを活かさないなんてもったいないのです。
そんな状況のなかでも何か自分でも「手芸」と「社会」に橋をかけることはできないかと、編集者や人気作家さんをゲストに呼んでメンバーみんなで手芸/ハンドメイドについて話し合ったり考えたり、活動を展開するヒントを見つけるための『未来手芸部』というオンラインサロンを開催するようになりました。この活動はかなり活発で、集まったメンバーさんの書籍が出版されることになったり、食品メーカーさんとのコラボレーション案件をサポートできたりと、僕も想定していなかった驚くほどの結果が出始めています。

その『未来手芸部』の活動でもよく話題に出るのですが、手芸に関する本やネットなどで何かしらのコンテンツを作るとき、無意識にターゲットを「作っている人」に限定しちゃっていることが多いと思いませんか? 僕が一般の人向けにコラムを書いたりするときに、編集者から「編み物とは何か」「手芸とは何か」の説明をきちんと書いてくださいとよく言われます。つまり、「作っている人」にとっては常識でも、「初めての人」にとっては全く分からない話になってしまうということ。はっきり申し上げてしまうと、手芸に関わっているほとんどの方々が「これはわかるだろう」と思って説明不足の傾向になる。編み物をしてみたいと初めて本を買ったけれど、編み図が読めなくて挫折したという話をよく聞きますが、事はそれだけではないのです。手芸愛好者と一般の人の異なるポイントを業界が捉えきれていないから、一般の人が入りにくくなっている部分があると思います。

――他の趣味だと「観る」「撮る」「集める」など様々な楽しみ方がありますが、手芸は「作る」にフォーカスされることが多いように感じます。

手芸は実際に「モノが出来る」ということが大きなポイントでしょうね。でも手芸だって「作らない」といった楽しみ方があっても良いのです。例えば、僕はポッドキャストで「手芸人生相談」というラジオコンテンツをやっているのですが、「手芸に興味があるけれど、不器用でできないと思うから始められません」という相談に、ゲストの人気ユーチューバーさんが「無理をしてやらなくてもいいのではないですか」って答えてくれた回があったのです。「手芸を見たり買ったり楽しんでいるうちに自然ときっかけがでてくるから、そうしたら始めればよいのでは?」と。要は作るだけが手芸じゃないですよねという回答なのですけど、本当にそれでいいと思います。「手芸」はあまりにも「作ること」に重きを置きすぎている。何も作らないけれど、SNSで動画を観たり、手作り品を購入したり、手芸用品売り場でグッズを見たり、「てといと」さんにアップされている製作記録を覗いても良いし。まずは「人の手から生まれ出るものづくり」というものを身近に感じてみることも楽しみ方の一つじゃありませんか。

はじめに話した「世界でハンドメイドが盛り上がっている」という話は、「作る」だけではない楽しみ方をする人が増えている面もあります。実際に一流ブランドのプロダクトで手芸の技法が多く使われ始めていることだけ見てもそれを感じることができます。近代以降、大量生産・分業制で行われるモノづくりの中で手放してしまった、古くから続く、手間や時間をかけて行う手作りの本当の意味や価値をみんなが気づき、本能的に取り戻そうとしているのではないかと思います。

「言葉」を使って互いを褒め合おう!

編み物をしていると心が落ち着くとか、糸に触れているだけで幸せとか、それも一つの手芸の「価値」ですよね。手芸をする行為自体が価値を生み出しているということ。でも「自分は手芸で価値を生み出している!」なんて境地にいきなり達するのは難しいと思うので、まずはロールモデルを作るといいと思っています。この人のようになりたいとか、同じような作品を作ってみるとか、そんなところから始めればいい。さらに言うと、僕はそこに「言葉を持ち込みたい」と考えています。作ろうとした動機とか、難しかった点とか、見ているだけで楽しいとか何でもいい。作る人も、作らない人も、作れない人も!思ったことを自分の言葉で表すことによって、自分の中に「物差し」ができていく。関心を示したり褒めたりする「言葉」を介して「自分の物差し」で、自分やみんなを元気づけていけばいい。
「てといと」は記録サイトでしょう。その機能を使って、小さなことを褒めて伝えてまた褒めてというように、ポジティブな言葉をかけあえたら、お互いに少しずつ自信がついて、「自分は価値があることをやっているのだ」と、もっと自分を認められるようになるのではないでしょうか。
僕も編みキノコ作家ですから(笑)キノコをはじめ様々な作品を編んでいますけれど、今は自分を喜ばせるためにやっています。心の安定だったり、考えを整理したり、楽しい遊びの気分で編んだり。自分らしい手芸との向き合い方ができればいいと思います。


いつも自分にワクワクしています

――ご自身を活動へと向かわせる根っこの部分には、どんな想いがあるのでしょうか。

手芸にしろ執筆にしろ僕のする活動はミルフィーユみたいな階層構造をしていると思っています。作品作りとか、書く内容とか、何を話すかとか、細分化された事柄一つひとつが重なっていています。「ものづくり」はその何層目かにあって、僕自身のある面が具体化してカタチになったものが「作品」です。その根幹にあるのは、自分は何者だろう、どうやって生きていこうとか、みんなが良い状態になるにはどうしたらいいだろうとか、「自分の生き方」のような部分が占めています。
ものづくりの家に生まれた自分、ものづくりが好きな自分、編みもの文化そのものが好きな自分、それを広めたいと考えている自分、小説や漫画などが好きな自分……自分って何者なのだろうって考えるといつも「自分の一番奥」に行き着きます。
簡単な話、「自分は何をしたいのだろう」と、いつも自分自身を楽しみにワクワクしている、それが僕なのかも知れませんね。

※2024年3月時点の内容になります。
※インタビュー場所ニットカフェ「森のこぶた」

プロフィール
横山起也(よこやまたつや)さん
編み物作家、小説家、文筆家、編みキノコ作家、NPO法人LIFE KNIT代表、オンラインサロン『未来手芸部』部長、チューリップ株式会社や日本ヴォーグ社YouTube『編み物チャンネル』など、数々の関連メーカーや出版社、テレビ局などで顧問、セミナー講師、アドバイザーなどをつとめる。

慶應義塾大学大学院にて文化史を学ぶ。編み図なしで自由に編む『スキニ編ム』を提唱。snow peak 『snow peak way』(2016年)や、仏ファッションブランドChloe 『Chloe Classes』(2022年)など業界外企業の主催イベントなどワークショップ講師も多数つとめる。『HUFFPOST』などWEBメディアでもコラムを多数執筆している。

著作物:『どこにもない編み物研究室 「ものづくり」のすべてに共通の考え方とコツがここにある!(誠文堂新光社)』2021年、『編み物ざむらい(角川文庫)』2022年、『どこにもない編み物研究室 日本の過去・未来編 手芸とは何か? 時間軸で俯瞰すると見えてくるものがある!(誠文堂新光社)』2023年、『編み物ざむらい2(角川文庫)』2023年 他
受賞歴:第12回日本歴史時代作家協会賞『文庫書き下ろし新人賞』(2023年)

(プロフィールは記事掲載時のもの)
ホームページ
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