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「世の中にたったひとつのもの」を生み出す、ハンドメイドの未来のために種をまきたい

手仕事作家として洋服、小物の受注制作、制作販売に取り組むと同時に、大人向け、子供向けに洋裁と手芸の教室を主宰し講師としても活躍されている「縫い工房」主宰・野村真由美さん。服飾専門学校の講師の経験を持つ野村さんが「縫いしごと」に魅了された理由とは?講師として、ハンドメイド作家として大切にしていることは?お話をお聞きしました。

洋裁は「答えはひとつ」ではない。ゴールを自身でイメージして複数のプロセスからベストを選ぶ。そのことに魅了されて・・・・・・

まず、洋裁に本格的に取り組まれたきっかけと、今にいたるまでの経緯を教えてください。

大学で国文学を学び社会に出た頃は、 “縫いしごと”が生業になるなんて、想像もしていませんでした。すべての始まりは、自身の洋服を作ろうと教本を見たところパターンが理解できなくて「どこかで教えてもらわなければ」と思い、文化服装学院の門を叩いたこと。まず夜間のコースに入学したのですが、もう少し本格的に取り組みたくなり、1年間で基本をしっかり学べる昼間のコースに移りました。夢中で学んでいくうちに、「もっと勉強したい」「先生になりたい」という思いがどんどん強くなってきました。そこで課程を修了した後、助手の採用試験を受け、先輩の助手をしながら学び、念願の講師になりました。

約10年間、同校で講師をしていたのですが、夫の転勤で神津島に移ることになり、学校を離れることに。島では社宅の奥様方やご近所の方などに洋裁や手芸をお教えしたり、自身の作品をネットオークションで販売したりと細々ながら活動を続けていました。その後、東京の郊外である国立市に移り、あるハープの先生とのご縁ができました。演奏会用のドレスやレッスンの時に着用されるお洋服のご依頼を受け、その方の高い美意識にお応えしようと奮闘しているうちに、「あなたならできる」と励まされて生徒さんにプレゼントされるバッグや小物も手掛けるようになりました。この出会いをきっかけに地域でのご縁が少しずつ広がり、受注制作、作品販売、教室の主宰という今の活動に繋がっています。


そこまで洋裁に魅了されたのはなぜですか?

洋裁、もっと言えば手しごとの「答えがひとつではない」というところに魅了されたのだと思います。塾の講師をしていた時代、よく生徒さんに「正しい答えは何ですか?」と訊かれました。そうした際、テストで点数を取るという目的をかなえるためには「正解」を示さないといけないですよね。でも、洋裁をはじめ手しごとは違います。文化服装学院で学んでいた頃、先生に「どうすればいいですか?」と「正解」を求めて問うと、「どうしたいの?」と逆に問いかけられました。そうではなくて「こういう風に仕上げたくて、そのための方法としては、この方法とこっちの方法ではどちらがいいですか?」と質問して初めてアドバイスをしていただけました。「どんな風に仕上げたいかというゴールを自分で決めて、そこに至る複数のプロセスの中からベストを選んでいく」というのが、洋裁や手しごとの面白さ、奥深さではないしょうか。


子どもたちにも「手仕事が好き」という気づきや「自分で作ったもの」に対する愛着を伝えたい

教室を主宰し、生徒さんたちを教えられる際にこだわっておられることはありますか?

一番大切にしていることは、「無理なく楽しく続けていただける」ことですね。教室の会場選びについても、特定の会場を持たず、学んでいただきたい方のご事情などにあわせて会場を選ぶようにしています。例えば、子供さん向けの教室は、親御さんにあまりご負担をかけない受講料にすることを考えて会場を選んだり、少し遠方の方を含めたくさん集まっていただきたい時は駅から近くの会場にしたりと私なりに工夫をしています。

教える際にこころがけていることは「『できたこと』を認めてさしあげること」。そこが文化服装学院の講師時代と大きく違いますね。文化服装学院は原則としてプロを養成する教育機関ですので、「できていないこと」を指摘するのも講師の大切な役割のひとつです。でも、私が主宰している教室の生徒さんは、生活の楽しみのひとつとして洋裁や手芸を学びたいという方が大半です。だから、「できた喜び」「創る楽しさ」を体感していただくことが何より大切だと思っています。特に、小学生の子供さん向けの教室は、基本的に、一回につき一つ課題を盛り込んでいるのですが、できるスピードなどに関わらず、完成したら、全力で(笑)褒めますし、メールでつながっている親御さんには、「ここをすごく頑張りました」「いっぱい褒めてあげてくださいね」とお伝えしたりもしています。

小学生の子どもさん向けの教室を始められたのはなぜですか?

少し大げさに聞こえるかもしれないですが、手しごとの未来への種をまきたいという思いで教室を始めました。今の小学生には、「私、手芸が好きかも」と気づく機会があまりないと感じています。例えば、絵を描いたり工作をしたりする図工は、幼稚園くらいから慣れ親しんでいるから、「こういうことが好き」と気づく子どもたちもいますし、そうした子は小学校の高学年くらいになると素晴らしい作品を作りだすことができます。それに対し洋裁や手芸の場合、小学校の高学年で始まる家庭科の授業で、突然習っても、時間や機材も限られているし、先生も一律に教えざるを得ないので、子供たちが自分はこういうことが好き、と気づく前に終わってしまう・・・・・。それが残念で、「手芸や洋裁は楽しい。好きかも」と思ってもらえる機会を作りたいと教室を始めました。


教室をやっていて、よかったと思われる時はどんな時ですか?

教室で一生懸命作品作りに取り組んでくださったお子様の親御さんから「家に帰ってもうひとつ作っていました」と言っていただいたり、夏休みの課題のために作ったスカートを「何回も洗濯して着ていました」というお話を聞いたりすると、とても嬉しいですね。大人の生徒さんでも同様ですが、作ることの楽しさや、自分で作った「世界でたったひとつの作品」に対する愛着をお伝えできたのではないかと感じた時は、やっていて本当によかったなと思います。
 それと、特に子どもさん向けの教室は、私自身がとてもワクワクします。子どもさんの発想は、本当に自由で素晴らしいです。刺しゅうのための図案などは、こちらが決めずに、その場で自由に書いてもらうことが多いのですが、大人がどうしてもどこかで見たようなものになりがちなのに対し、子どもたちはそういう思い込みがなく、デザインも配色もとてもユニーク!子どもさんの絵を見て、「この絵、自分の作品の図案に欲しい!」(笑)と思うこともいっぱいあり、作り手として、すごく良い刺激を受けています。


作品を世に送り出す者として常にスキルアップが必要。だからこそ、ライフイベントと両立し継続できるような「支えあい」の輪を・・・・・

プロの作り手として心がけていらっしゃることはどんなことですか?

スキルアップを怠らないことがとても大切なのではないでしょうか。年に一回コンテストにも出展するようにしているのですが、その目的は、販売価格などにこだわらず持てるスキルを精一杯表現しスキル磨きにつなげる作品を制作するためです。最近出展した作品では、がま口バッグに刺しゅうをしたのですが、専門学校で服飾刺しゅうを習って以来、先生について学び直しています。

私は、手掛けた作品をお買い求めいただく際、「世の中にあふれるたくさんのものの中から選んでいただいた」という感謝と共に「そのものが暮らしの傍らにあることで少しでも喜びが増えますように」という祈りを込めて送り出しています。たとえて言うと、わが子を「お嫁に出す」という気持ちですね。私にとって、プロとして作品を作るということは、手塩にかけて子どもを育てるようなもの。努力を惜しまず「売れたからこれでいいや」と立ち止まるのではなく、もっといいもの、お買い求めいただいたすべての方に愛おしんでいただけるものを作りあげるためにスキルを磨き続けることを心がけていきたいと思っています。


最後に、今後の夢をお聞かせください。

手しごとをライフワークにしたいという方が、子育てや介護といったライフイベントと無理なく両立しながら続けていけるお手伝いをしたいと思っています。現在、手しごと作家のための講座や展示販売会も主宰しているのですが、展示即売会には子育て中や介護中の作り手さんにも「やれるようなら参加してね。会場にいらっしゃるならお子さまもご一緒に、会場に来られないなら作品を委託してね」とお声がけしています。

「やるなら全力投球、無理なら諦めざるを得ない」と思い詰めるのではなく、プライベートで忙しい時は無理して全力投球しなくていい、自分のペースで細々とでもいいから続けていけば、スキルも磨かれ、未来へつながっていくと考えています。私自身、本格的に活動をするきっかけとなったハープの先生からのご依頼を受けた時は、ちょうど男の子と女の子の双子を出産したばかり。一人を寝かせ一人をおんぶしてパターンを引いて(笑)、必死にご期待に応えようとする私に、その方が、「子どもさんが少し手を離れるまで待つから」とおっしゃってくださったのです。この言葉に支えていただいからこそ、今があると感謝の気持ちでいっぱいです。だから、その恩返しと言いますか、今度は私が、少しでもプライベートで奮闘中の作り手さんたちの支えになれればと思っています。

また、こうした支えあいを実現するためにも、作り手さんどうしの交流はとても大切だとも感じます。「てといと」さんのようなサイトをきっかけに、互いが支えあい、刺激しあえるような交流が持てればいいなと願っています。

多くの方にハンドメイドの楽しさや喜びを伝えると同時に、作品を発信する者として高い意識を持たれていることにとても感銘を受けました。本日はありがとうございました。

※2020年01月時点の内容になります。

◆縫い工房さんの作品一覧はコチラ
プロフィール
野村 真由美さん
社会に出てから文化服装学院で洋裁を学び、講師の道へ。同校に約10年務めた後、 洋服、小物の受注制作、制作販売に精力的に取り組むと同時に、大人向け、子供向けに手芸と洋裁の教室を主宰し講師としても活躍。学びたい人のニーズに合わせて会場を選ぶなど、「ムリなく楽しく続けられる」を目標に、その丁寧な指導ぶりが好評を得ている。私生活では社会人の長男、高校生の男女の双子のママ。(プロフィールは記事掲載時のもの)
てといとのプロフィールページはコチラ
縫い工房さんのお教室
●「おとなの手芸・洋裁洋室」
・月1回第3木曜日・中央線国立駅徒歩3分「リトマス」にて開催。 がま口バッグやワイヤーポーチなどテーマを決めた作品づくりや、それぞれのニーズに合わせた洋服づくりが学べる <例>おとなの手芸・洋裁教室~アルミねじ式ばね口金のバッグ~受講料3,000円(レッスン代)+材料費・パターンとデザイン料
●「小学生の手芸教室」
・毎月1回土曜日 ・国立市で開催 ・手芸と洋裁の基礎から学べる教室。夏休みには、自由研究用の大物作品の制作も指導。 例>「玉止め・並み縫い・基本のき」受講料1,300円~
●「手しごと作家のパーフェクト講座」リトマスコラボ企画なども開催
縫い工房のインスタグラム
nuikoubou
詳細URL
縫い工房ブログ
画像・テキスト資料出典
画像は全て(C) エムデザインオフィス

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