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まるで研究者!仮説をたてて確認し、記録し刷新を繰返す。好きが高じて作った立体刺しゅうが唯一無二の作品に!

どうなっているの!?と思わず眼を凝らして見入ってしまう、刺しゅう糸で精巧に表現された花や昆虫、きのこたち。色の組み合わせも独特です。作品を生み出したのは、刺繍枠を使わない技法オフフープ(R)の立体刺繍作家PieniSieni(ピエニシエニ)さん。独学で技術を学び、作り方を生み出していった、というから驚きです。作り方についていくつもの仮説を立て、確認し、その結果を記録し積み上げ、刷新する……研究者のような作家活動は、彼女ならでは。まさしく「ゼロから生み出す人」です。今までの歩みとこれからを伺いました。

自ら考案した「立体刺しゅう」や、伝統工芸「春仔花」の技法をアレンジし作品を作っています

正面からはもちろんですが、横からみても綺麗。これがPieniSieniさんの立体刺しゅうなんですね

花や昆虫、海の生き物や野菜などを『立体刺しゅう』や、伝統工芸「春仔花・纏花」の技法をベースにアレンジし作品を作っています。針と糸だけでなくワイヤーなどの金属や石膏、オーガンジーなど様々な素材を組み合わせたものです。講座で作り方を教えたり、本で紹介したり、先日はギャラリーで展示・販売をさせていただきました。
私は同じものを量産できないタイプ。もちろん「花束」という作品だったらいくつもの花を作ることはありますが、例えば、花1個のブローチを100個作るとなると、モチベーションの維持が難しくなってしまう。同じモチーフでも「もっとこの部分をキレイに仕上げたい」など常に課題は残るので、しばらく考えてから再び試して、自分の考えが合っているどうかを確認する、その繰返しで作る手法も作品の種類も増えていきました。

まるで研究者ですね。手芸をはじめたきっかけは何だったのでしょうか

電気メーカーでパソコンなどに入っている基盤の設計をするハード設計エンジニアという仕事をしていました。主人の留学を機に退職し渡英。刺しゅうをはじめたのは、帰国後の2013年からです。当初は同じ仕事に戻ろうと思っていたのですが、ハローワークで職業訓練校の存在を知り興味を抱き入校。お給料をいただきながら塗装技術や建築を学び、2級建築士の資格も取得。これから本格的に!という時に病気になりハードな仕事ができなくなってしまったのです。しかし、ちょうど自宅を建てる計画があったので、学んだことを活かそうと自分で図面を引いて自宅をデザイン、その後もカーテンやクッションなどインテリア作りを楽しみました。

自宅がひととおり落ち着くと、今度はブログを立ち上げてそこにフェルトで作ったお花や小箱、ポーチなどをアップしはじめました。簡単な雑貨を作ってはブログに上げていたのですが、アップするたびに反響が違っていて、作品作りというより反響の数字の変化が面白くて、「もっといい作品を作りたい」と手仕事に夢中になっていきました。


試行錯誤をしながら生まれた独自の技術

はじめはフェルトで花を作っていただけでしたが、フェルトは色が限られるのでもっとバリエーションを出したくなり、フェルトに刺しゅうをしはじめました。縫い方や組み方など試行錯誤しながら考えたものが、刺繍枠を使用しないシートフェルトを土台にした立体刺繍技法『オフフープ(R)立体刺しゅう』になりました。
「こんな作品が作りたい!」という想いがさらに高まって、ビーズステッチやワイヤーワークなど色々な技術も独学で習得。一度お教室へ習いに行ったこともあるのですが、私は猪突猛進型の人間。作っていて「こうしたい」「ああしたい」と思ったら、それを実現するために自分でとことん調べ探しに行く、調べた後はひたすら「自分が表現したいこと」に向かって作り上げていくタイプ。その過程で、新しい作り方や独自の手法ができていくので、自分には習うよりも独学が合っていました。そうして積み重ねた『技術』と、周囲から『独特の色づかい』と言われる私の感性のような部分が合わさって、私ならではの作品ができたのだと思います。

作品は自分で考えて生み出しているので、技法はすべて細かく記録を残しデータベース化しています。ハンドメイドを楽しみたい方に向けた本の出版に活かしたり、趣味で楽しみたい方や講師を目指したい方のための講座カリキュラムにしたりと、レシピの一部は公開していますが、非公開のノウハウの方が多いかもしれません。
今後は、作家としての活動に重きをおいていきたいと思っているので、それらの技術を用いて、唯一無二の作品を作っていきたいと考えています。

道具はどんなものを使っているのでしょうか

本に掲載する際は、入手しやすい手芸道具や牛乳パックなど、どの家庭でも用意できるものを用いて作り方を紹介しています。ですが自分で作品を作るときは、家にある数多の手芸道具を活用して作り方を考えることが多いんですよ。実は私は手芸道具フェチ。新しい道具や面白そうなものを見つけると、すぐに買ってしまうんです。お陰でどんどん道具が増えてしまっていて(笑)。例えば、フィレーレース編み用の金属製の目板というものがあるのですが、これにワイヤーを沿わせて刺繍糸をぐるぐる巻きにすると、同一ピッチのポンポンができます。堅い厚紙を用いて作ることもできますが、何個も作っていると紙が痛んで大きさが変わってしまいます。ですが金属製の目板ならばその心配はありません。単純でシンプルな形の道具ほどアレンジが利くので、「こういうものを作りたい」とイメージしてから色々な道具を引っ張り出してきて、あぁでもない、こうでもないと研究して生まれた新しい作り方や表現が、作品の独自性につながっていると感じています。

自分の「好き」をとことん突き詰めることが大切

どうしたらオリジナリティあふれる素敵な作品を作ることができるようになりますか

私のことを言えば、刺しゅうをはじめてからまだ10年くらいです。しかも最初から作家になろうなんてサラサラ思っていなくて、ただ好きなものをひたすら作っていただけ。作っていて「ここに金属入れたい」と思ったら、ワーッと調べて、ワーッと材料をかき集めて、作り方を突き詰めていく。わき目もふらず凄いスピードで突進する、といった繰返しでやってきました。そんな毎日でしたが振り返ってみると、いつもワクワクしていましたし、もっとこだわりたいと考えを巡らせていました。やはり、作品を作ることが「好き」なのだと思います。そして、自分が「好き」と思ったものを突き詰める視点は、人より深かったのかもしれません。

自分が「好き」だと思ったものごとに対して、なぜそれを「好き」と感じたのか、それは色なのか、カタチなのか、色の組み合わせなのか……その正体をとことん突き詰めることが、上達することだけでなく、オリジナリティのある作品作りにつながるのではないでしょうか。自分は「何が好きなのか」を本当の意味で分かっていない、考えたことがない、という人が意外と多いのかもしれません。物事を深める視点を磨くことが大切だと思います。

ピエニシエニさんにとって作品作りとはなんでしょう

生活の一部です。とにかく今は、朝起きてから夜寝るまで基本的に休みなく作り続けています。もちろん家事をしたり用事があれば出かけたりしますが、作り続けられるのはそれが好きだからです。何かを作るとき、こういう作り方をしたらできるのではないかと最初にシミュレーションして仮説を立てるのですが、実際作ってみてそれを証明できた時の気持ちの良さや、作品を作り上げた時の達成感、さらに生み出した技術やノウハウが自分の中にとどまっていく貯金感、それが本当に楽しくて私を作品作りに向かわせています。作品を見たい、欲しい、と言ってくださるみなさまの想いに応えられるよう、ビジネスとして関わってくださる方々の意見も取り入れながらバランスをとって、作家として成長していきたいと思っています。


自分の世界観をきちんと発信していきたい

今後は作家としての活動に重きを置いていきたいということですが

昆虫シリーズに続き、海の生物や野菜の刺しゅうなども発表しているため、男女・年齢を問わず、昆虫や海の生物が好きな方など新しい層の方々が作品を購入してくださる機会が増えています。アートギャラリーの出展に加え、博物館での展示もあり活動の場が広がっています。とはいえ作品ありきのお話なので、とにかく今はそれに向けてコツコツとひたすら作品を作る日々です。
豊かな自然やその色彩の美しさに囲まれて育ってきた経験や、海外で生活や旅をしてきた経験、刺しゅうと出会ったことで実感した物事を突き詰める自分の性格、ものづくりに向かうワクワク感も!様々な要素がごちゃまぜになって、今の自分を作っていると感じています。今後は一人の作家として、自分から生まれ出る世界観をきちんと発信していきたいと思います。

※2024年2月時点の内容になります。

プロフィール
PieniSieni(ピエニシエニ)さん
オフフープ(R)立体刺繍作家、日本フェルタート(R)協会理事(Bead Felt Embroidery artist)。 大学卒業後、電気メーカーのハード設計エンジニアに。夫の留学を機に渡英。帰国後2013年より手芸をはじめる。独学で刺しゅうの技術を深めていき、「フェルタート(R)フラワー」「オフフープ(R)立体刺繍」作品の制作を開始。2014年「オフフープ(R)立体刺繍の昆虫シリーズ」の制作を開始。その後も、ビーズステッチ、ワイヤーワーク等のスキルを独学で学ぶ。2016年より企業商品の企画デザインやカルチャーセンターの講師をスタート、2017年日本フェルタート(R)協会を立ち上げ理事に就任。代表理事講師として認定講座や通信講座の講師として活躍する傍ら、2018年からは毎年コンスタントに著作本を出版。2022年、2023年はアートギャラリーや博物館等に出展。2024年は作家活動を本格化させていく。作家名のPieniSieniは、フィンランド語で「ちいさなきのこ」を意味する。
※フェルタート(R)フラワー:PieniSieni 考案のフェルトで作ったお花。オフフープ(R)立体刺繍:刺繍枠を使用しないシートフェルトを土台にした立体刺繍。

著作物:『PieniSieniのボタニカル刺繍(河出書房新社)』2019年、『フェルトで作る大人の花101(ブティック社)』2019年、『いちばんちいさなフェルトの花アクセサリー(エクスナレッジ)』2020年、『立体刺繍の花と蝶々(誠文堂新光社)』2021年、『PieniSieniの植物と動物の刺繡(河出書房新社)』2022年、『針がいらない いとまき花(日本ヴォーグ社)』2022年、『Flower Journey フェルトの花で世界旅行(ブティック社)』2023年 など他多数

受賞歴:第3回マガジンランド社主催「手芸&クラフト展『贈る』展」最優秀賞(2016年)、KAWAGUCHI主催「てづくりの素コンテスト」準グランプリ(2016年)、「第7回AJCクリエイターズコンテスト」金賞・文部科学大臣賞(2014年)など他多数
(プロフィールは記事掲載時のもの)
PieniSieniホームページ
https://pienisieni.com/
インスタグラム
PieniSieniインスタグラム
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PieniSieni X
詳細URL
PieniSieni(ピエニシエニ)
画像・テキスト資料出典
PieniSieni(ピエニシエニ)

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