高級モードの世界で育まれたオートクチュール刺しゅうは「手しごとの醍醐味」の結晶です!
オートクチュール刺しゅうの材料を扱うオンラインショップ「小さな手芸屋さん」。店主であり教室も営むフィロザ美南さんは、高級モードの世界で培われたオートクチュール刺しゅうに魅了されパリで学んだ経験をお持ちです。フィロザさんが心を奪われたオートクチュール刺しゅうの魅力とは?これまでの経歴や今後の夢などもお聞きしました。
美しさ、繊細さに魅了され、パリの最高峰メゾンが設立した学校へ
オートクチュール刺しゅうを学ぶためパリ留学されたきっかけ、そこでどう過ごされていたのかをお聞かせください。
オートクチュール刺しゅうとは、シャネルやディオール、サンローランのオートクチュール(高級仕立て服)を手がけるアトリエで長い間培われているフランス伝統の刺繍のひとつです。クロシェという特殊なかぎ針を使って、たくさんのビーズやスパンコールを生地の裏側から刺繍する独特の手法(リュネビル刺繍)が用いられます。
幼い頃からファッションや手しごとが好きだった私がオートクチュール刺しゅうに出会ったのは、中学生の頃。当時、TVで放映されていた最新のモードの世界を紹介する番組で目にし、そのため息が出るほどの美しさや繊細さにすっかり魅力され「いつか、本場に行って学びたい」という夢をいだくようになりました。
服飾系の専門学校を卒業しアパレル企業で働きながら少しずつお金をため、フランス語も勉強し、2011年に思いきって渡仏。パリのオートクチュール刺しゅうのアトリエ「ルサージュ」が運営する刺しゅうスクール「エコール・ルサージュ」に入学しました。「ルサージュ」は、1世紀以上続くオートクチュール刺しゅうのメゾンとして最高峰の存在で、フランスではファッションに特別な関心がない人の間でも名が知れ渡っています。「エコール・ルサージュ」は、そのメゾンで技術を培ってこられた一流の職人さんたちから直接技法を学ぶことができるスクールです。先生たちは、スクールのシフトがない時はアトリエで本物のオートクチュールのドレスの仕事に携わっていらっしゃいました。
世界中から生徒が集まるこのスクールでの日々は、私にとって、まさに至福でした。日本にいる時にフランス人のパートナーを得ていたこともあり、言葉や生活習慣の差異などの点で大きな不安がなかったこともありますが、何より、最高峰のプロから直接学び、オートクチュール刺しゅうの世界にどっぷりと浸っていられることが最高の幸せだったんです。
ビーズやスパンコールをひとつひとつ刺しゅうしていく作業は、とても細かいものですが、もともと細かい作業が好きなので、すべてを忘れて打ち込み、すっかり没頭する日々。そんな緻密な作業の末に美しい作品が出来上がると最高の達成感があるのです。毎日が充実していて、1年間のコースが終わった時は、正直、「まだ帰りたくない!」(笑)と思ったほどでした。
▼エコール・ルサージュの課題作品
フランス発のビーズ、スパンコールや材料が揃うオンラインショップ
オートクチュール刺しゅうのオンラインショップ「小さな手芸屋さん」は、どんなお店ですか?
帰国後、学校で知り合った友人とオートクチュール刺しゅうの教室を開くとともに材料の販売を手掛ける「小さな手芸屋さん」を2012年にオープンしました。2015年の出産をきっかけに、独立して運営を始め、現在に至っています。
「小さな手芸屋さん」では、ビーズやスパンコール、ラインストーンといった材料を中心に、オートクチュール刺しゅう専門の針であるクロシェ、専用の刺しゅう枠などを販売しています。利き手でペンのようにクロシェを持ちながら、もう片方の手でかぎ針の先端に糸をひっかけ、両手を使ってステッチをするので、刺しゅう枠も手で持たずに作業できる専門のものを使います。また、糸も、ミシン糸よりも細く毛羽立ちがなくビーズやスパンコールを刺しゅうするのに最適な「フィラガン」という糸を使います。
こうした用具の他、初心者の方向けのキットも販売していますので、「オートクチュール刺しゅうを始めてみたい」という方にとっても、一通りの材料がここですべて揃います。
扱っているビーズやスパンコールなどは、帰国当初はフランス留学中に買いためたものをご提供していたのですが、次第にパリの専門メーカーなどから仕入れるようになりました。高級モードの世界で培われた刺しゅうに使う材料ですので、一つ一つがきわめて高品質で、色やテイスト、デザインなどのバリエーションもとても豊富です。
もともと、材料を集めるのが好きだったこともあり、ハンドペイントのスパンコールなどフランスのメーカーが誇りをもって作る最上級の素材を揃えています。作品のクオリティにも差が出るので、素材の美しさに興味を持って習いに来てくださる生徒さんもいらして、材料の魅力にも助けられていると感じます。
針の持ち方からスタートされた生徒さんが少しずつ上達・・・・・それを眼にするのが嬉しい
オートクチュール刺しゅうの教室の内容や教室をやっていてよかったと感じることなどをお聞かせください。
少人数クラスの全5回レッスンで作品を仕上げていただくレギュラーレッスンでは、専門のかぎ針であるクロシェを使って、ビーズやスパンコールを刺繍するテクニックを中心に、基本から応用まで少しずつレベルアップできるようなカリキュラムを工夫しています。その他に、マンツーマンの体験レッスンも開催しています。どちらも、生徒さんのレベルに合わせてレッスンをするので、初心者の方も大歓迎です。
生徒さんは、それまでに様々な手しごとを経験されてきた方もいて、中には、「これを人生最後の手しごとの趣味にしたい」と習いに来られたご年輩の方もいらっしゃいます。最近では、オートクチュール刺しゅう作家の小林モー子さんが出演されたTV番組をきっかけに、興味を感じて習いに来られる若い世代の方もいらっしゃいます。
生徒さんの多くは、最初は専門の針の持ち方から学ばれます。そうした方が、どんどん上達されるのを手助けさせていただけるのは、本当に嬉しいことだと思っています。オートクチュール刺しゅうは「すぐにできるようになる」というものではない分、ひとつスキルを身に付けて「できること」が増えると、とても達成感があるんです。私自身がそうですし、生徒さんの表情が輝くのを目の当たりにしていると、教室をやってよかったと心から思います。
手しごとを支える分野を応援する活動も
今後取り組んでみたいこと、作りてとしての夢は?
相次ぐ自然災害や新型コロナウイルス感染症の拡大など、社会全体の揺らぎを実感するにつれ、何らかの形で社会に貢献できれば、と考えるようになりました。ささやかですが、セール品の売上の一部を義援金として寄付するといった活動を行っています。
一人の作り手としては、少しずつ進歩して、一生のうちに納得できる作品をひとつ作ることができればと思っています。現在、子育て中で製作に没頭できる時間がなかなかとりづらいのですが、家族も理解し応援してくれますし、焦りのようなものはありません。オートクチュール刺しゅうは、「ここまでできたらいい」というものではなく、一生をかけて高みを目指すことができるからです。そんな世界に出会えたことに喜びを感じています。
時間や手間をかけた分作品に愛着が湧き、一生の趣味になるオートクチュール刺しゅうを多くの人に
最後に、オートクチュール刺しゅうに関心を持たれた方へのメッセージを。
少しでも関心をお持ちの方は、まずは一度、やってみてほしいと思います。オートクチュール刺しゅうの技術は、限りなく奥が深いものだし、ひとつの作品を作るのに時間もかかります。「すぐにできる」というものではない分、ずっと技術を磨いていける「一生の趣味」になりえますし、時間や手間をかけて作った作品にはこの上なく愛着が持てると思います。手しごとの醍醐味がいっぱい詰まったオートクチュール刺しゅうの魅力を一人でも多くの方に体験していただきたいし、微力ですが、そのお手伝いをしていきたいですね。
少しハードルが高いと思い込んでいたオートクチュール刺しゅうですが、続けることで上達が続く「一生の趣味」だと思うと、肩の力を抜いて踏み出せる気がしました。小さい作品でもその存在感は圧倒的。いつか必ず…と楽しみが増えました。フィロザ美南さん、ありがとうございました。
※【小さな手芸屋さん】では、新型コロナウイルス感染拡大予防策を踏まえ、十分な措置を講じた上で、材料販売イベント「隠れ家メルスリー」を企画、2020年9月18日、19日に第2回を開催予定です。予約制となりますので、詳細はこちらをご確認ください。
※2020年08月時点の内容になります。
小さな手芸屋さんの作品一覧はコチラです。
プロフィール |
フィロザ美南さん 服飾専門学校を卒業しアパレル業界での勤務を経て、2011年、渡仏。パリのオートクチュール刺しゅうのメゾン「ルサージュ」が設立した「エコール・ルサージュ」でオートクチュール刺しゅうを学ぶ。帰国後、2012年に、オートクチュール刺しゅう・ビーズ刺しゅうの素材を扱うオンラインショップ「小さな手芸屋さん」を開設。動画配信やフランスの素材メーカーのスパンコール、チェコシードビーズ、専門器具などを販売。教室も開催し、オートクチュール刺しゅうの魅力を伝える活動にも精力的に取り組む。(プロフィールは記事掲載時のもの) てといとのプロフィールページはコチラ |
小さな手芸屋さん サイト |
https://petitemercerie.com/ |
詳細URL |
小さな手芸屋さんFacebook |
画像・テキスト資料出典 |
画像は全て小さな手芸屋さん |