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maacoさん「デンマーク手工芸便りvol.5」連載エッセイ最終回

こんにちは。maacoです。

ついにこのシーズンがやってきましたね。
デンマークでは11月後半からクリスマスマーケットが始まり、街の中も賑やかです。デンマーク語ではクリスマスの事をユール(Jul)と呼びます。今日はデンマーク流のユールの過ごし方や食べ物、手芸についてお届けします!
※コペンハーゲン市内のクリスマスマーケット


秋から少しずつ始まるクリスマスの準備

北欧の短い夏が終わり、9月に入るとデンマークはすっかり雨の季節になりました。毎日の天気は「晴れのち曇り、所により雨」という具合にとても変わりやすく、青空が広がったかと思えば突然ひょうが降ってくることもありました。 

秋が深まるにつれて、長かった日照時間(夏は22時過ぎまで明るい時もありました)は日に日に短くなっていきます。どんよりした曇り空もあいまって、私の気持ちもすこし落ち込んでしまいそうでしたが、街の中では少しずつ、楽しいクリスマスの準備がはじまっていました。

私が最初に見つけたデンマークのクリスマスは、9月末に偶然立ち寄った手芸店の中にありました。お店の奥に並んでいたのはクリスマスの刺しゅうキット。クリスマス関連の手芸本もいち早くも売り出されていました。

※手芸店で見つけたクリスマスの刺しゅうキット


刺しゅうキットはデンマークで盛んなクロスステッチの図案です。もみの木や天使、星など色んなデザインがありました。キットの作品はテーブルクロス、ツリーの足元を覆うカバーやアドベントカレンダー、プレゼントを入れる靴下など、かなり大がかりな物ばかりです。確かに秋の早いうちからコツコツ準備をしないとクリスマスに間に合わないだろうなぁと、早い時期から売り出されている事に納得しました。 昔からデンマークの人たちは時間をかけてクリスマスの準備をしながら秋の季節を過ごしていたのでしょうね。

ちなみに、北欧のアドベントカレンダーの多くには日付の部分に小さなリングがついています。ここには小さなお菓子をぶら下げて、毎日ひとつずつ食べながらクリスマスを待つ伝統があるそうです。

10月に入ると家族や友人たちの間ではクリスマスの話題がよく出て来るようになりました。この頃からプレゼントのウィッシュリストを作り、贈り物の準備を始めるのだとか。デンマークではプレゼントをサンタクロースからだけではなく、集まる家族全員から貰います。なのでプレゼントを早めに準備しておかないと、良いものはすぐに売切れてしまうそうです。

※クロスステッチのアドベントカレンダー

私もお世話になっているホストファミリーへのクリスマスプレゼントに手編みの帽子をプレゼントしようと思いつき、毛糸を買いに行きました。小柄で笑顔が可愛いお母さんはふわふわのアルパカの糸が好きだろうなぁとか、モノトーン好きの娘さんにはこの色合いのグレーが似合いそうだなあとか。身につける誰かのことを考えながら毛糸を選ぶのはとっても楽しいですよね、ついついお店に長居してしまいました。

その後、飛行機やバスなどの移動時間を使いながら仕上げた帽子はラッピングをして家のツリーの下に置いておきました。クリスマス当日は一緒にお祝い出来ないけれど、みんな喜んでくれるといいなぁと願いながら。

ハートのデコレーション

デンマークのクリスマスデコレーションでお馴染みなのは、赤と白など2色の紙を組み合わせてハートを作る「ユールヤータ(Julehjerter)」。クリスマスシーズンは街の色々な所でこの飾りを見かけます。コペンハーゲンにある運河沿いに並ぶカラフル建物が綺麗なニューハウンにも大きなユールヤータのオーナメントがたくさん飾られていましたよ。

その他には細長く切った紙を組み合わせて作る星「ユールステーネ(Julestjerne )」もよく見かけるデコレーション。これらのオーナメントは紙で手軽に作ることができます。「小学校の頃は教室を飾るクリスマスデコレーションを作る為の1日があって、ユールヤータとユールステーネをたくさん作って窓辺に飾ったのよ」とデンマークの友人は楽しそうに子どもの頃のクリスマスの思い出を話してくれました。

※ユールヤータが飾られたニューハウン



北欧のクリスマスの妖精ニッセ

日本でクリスマスといえばサンタクロースを思い浮かべると思いますが、デンマークではサンタクロースよりも赤い帽子をかぶった小さな妖精「ニッセ」をよく見かけます。

ニッセは北欧伝承に登場する妖精です。家の納屋や馬小屋に住み家畜の世話などをして人々を支え、クリスマスにはサンタクロースの代わりにプレゼントを届ける、とっても働き者の妖精です。しかし、家の住人がニッセの面倒をきちんとみていないと家主にいたずらを始めてしまうとか。そんな言い伝えからクリスマスの夜にはニッセの大好きなミルク粥をテーブルや屋根裏部屋に置いておく習慣があるそうです。

ミルク粥とはお米をお砂糖と牛乳で煮た甘いデザート。白いお粥に真っ赤なサクランボのソースをかけて食べます。デンマークではクリスマスディナーのデザートにデコレーションケーキではなくこのミルク粥を食べるそうです。鍋には一粒だけアーモンドが入っていて、それが当たった人には幸福が訪れるといわれています。

街のお店や蚤の市、クリスマスマーケットではニッセの人形をよく見かけます。長いおひげに大きな鼻の小さなサンタクロースのようなニッセ、金髪おさげの女の子ニッセ、小さな子供のニッセなど、色んなニッセがいます。手芸店ではニッセの人形を作れるキットを買うことができます。簡単に作れるそうなので、子どもたちと一緒にチャレンジするのも楽しそうですね。

※街で見つけたニッセのオーナメント


大切な人と一緒にあたかく過ごすクリスマス

暗く長い冬を過ごす北欧の暮らしの中で、クリスマスは人々の心を明るく楽しくさせてる大切なお祝い。手作りのオーナメントを飾る。家族が集まってキャンドルを灯す。食事を皆でいただいて、プレゼントを交換し合う。時間をかけて準備をして、大切な人とゆっくり過ごすデンマークのクリスマスは、家で過ごす時間を大切にする北欧ならではのシンプルだけれど特別なあたたかさがありました。

最後に…

デンマーク手工芸便りは今回が最終回。私はデンマークでの滞在を終えて日本に帰国します。憧れだった北欧デンマークに来て暮らした1年間。たくさんの人や物に出会い、手作りを大切にする暮らしに触れながら、日々の生活を豊かにする秘訣をたくさん教わったなあと思います。皆さんにもお便りを通して伝わっていたら嬉しいです。

今年のクリスマスは、久しぶりに会える家族や友人達と今年あった色々な出来事を語り合いながら過ごす時間を楽しみたいと思います。皆さんもあたたかなクリスマスをお過ごしください。

それではまた。God Jul! (ゴー ユール!:メリークリスマス!)
(2019年12月掲載時の内容です)

不定期連載ではありましたが、1年間maacoさんの連載エッセイをお楽しみいただきありがとうございました!北欧の手芸の風を感じていただけたでしょうか?今後のmaacoさんの活躍にもご期待ください。そして、忙しい課題の合間をぬって執筆していただいたmaacoさんに、心から感謝いたします。

◆maacoさんの連載エッセイ「デンマーク手工芸便り」
「vol.1 はじめまして。デンマーク」
「vol.2 デンマークで編んだセーターのこと」
「vol.3 デンマークで学んだ刺しゅうのこと」
「vol.4 デンマークで学んだソーイングのこと」
「vol.5 デンマークのクリスマス」
◆maacoさんのインタビューはコチラ
プロフィール
手づくりの好きな両親のもと、幼い頃から手芸を始める。 自由学園中等科、高等科にて生活美術、裁縫などを学び、暮らしに寄り添ったものづくりの楽しさを深める。 2010年より、主にニットを用いた作品の展示、販売を開始。 2015年、「暮らしのなかの贈り物」をテーマにしたwebセレクトショップ 316(サンイチロク)をオープン。主に商品の企画・制作を担当。2019年1月デンマークに渡り、スカルス手工芸学校を修了後、グレーべ織物学校に留学中。(プロフィールは2019年の連載掲載時のもの)

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画像は全て(C)maaco

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