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編み物は「趣味」であり「仕事」。ネット上の工房で仲間と共にやりがいある製作に励む

オーダーニットづくりなどを手掛ける「knit-c (ニットシィ)」を主宰するトヨヒデカンナさん。2002年にスタートした「knit-c」は、職人さんたちが集い、イベント用ニットの製作や雑誌への作品提供も手掛けるなど、ユニークなコミュニティーに成長しました。主宰者でありニットデザイナーとして活躍するトヨヒデさんに、これまでの軌跡、今後の夢などをお聞きしました。

出産がきっかけで編み物の魅力に出会う

「knit-c」を始められたきっかけと、現在に至るまでの経緯を教えてください。

手しごととの出会いは、幼稚園の頃。祖母に教わり、ぬいぐるみのお洋服を作ったりしていました。でも、青春時代は他の楽しみに夢中で(笑)、手しごとからはすっかり離れていました。再び、と言うか、改めて、手しごとに関わるようになったきっかけは、出産です。

「子どもの洋服を作ってあげることができれば」という軽い気持ちで始めた編み物の魅力にハマり、子育てをしながら編み物教室に通い、テクニックや製図などを教わり、講師の資格も取りました。同時に、そのころ話題になっていたホームページ作りにも関心があったので、自分の作品を発表できるサイトとして2002年に「knit-c」を開設しました。

▼イラストレーションソフトを使った編み図作成

すると、サイトをご覧いただいた方からオリジナルニットのオーダーをいただくように。編み物が私の生活の柱のひとつになるにつれ、私ひとりでやるのではなく、高度なテクニックをお持ちの方たちに製作シーンでご協力いただいたらどうだろうと考えるようになったんです。そこで、ホームページやSNSを通じてお声がけをしたところ、編み物講師の資格をお持ちの方、メーカーの現場でのご経験がある方などが手を挙げてくださり、私がデザインを手がけ、製作は「ニッターさん」と呼ばれる職人さんたちにご協力いただくというネット上の「工房」とも言える形ができました。

現在、ご協力いただいているニッターさんは、手編み職人の方が9名、機械編み職人の方が2名、縫製職人の方が2名です。企業からのご依頼にも対応し、ファッションショーなどのイベントやCM用の大物ニットの製作、編み物本へ作品提供など、自分では想像もしていなかったやりがいのある案件をたくさん経験させていただいて、ネットで結ばれたご縁に本当に感謝しています。


プロが集うからこそ高度な要望にも応えられる!

ニッターさんたちと協力して作りあげることの難しさ、楽しさはどんなところですか?

オーダーニットを注文される方の多くは、自分だけの一着が欲しいと思っておられて、強いこだわりをお持ちです。こうしたご依頼主さんのご要望やこだわりをきちんと把握し、それをニッターさんたちにご納得いただけるように伝えるのが、私の重要な役割。そして、それが、難しくもあり、楽しくもあります。

曖昧な形でしかご要望が把握できていないと、ニッターさんたちにもうまく伝わらなくて、いい結果はでません。デザインなどのお好みを把握するだけにはとどまらず、出来上がった一着を身に付けることでどうなりたいと考えていらっしゃるのかというところまで理解することを心がけています。

例えば、コスプレの衣装を注文してくださった方がいらしたのですが、ご指定のあったキャラクターの衣装のデザインを再現するにとどまらず、身に付けられた際のフィット感だったり、考えていらっしゃるニュアンスだったり、そうしたものまでできるだけ把握して製作をして、とても喜んでいただきました。

▼リバーシブルのセーター

ニッターさんたちの高度な技術を活かすことで、私一人では実現しないような、ユニークだったり、スケールの大きな製作ができるという点も大きな醍醐味だと思います。例えば、東京都内の主要駅の通路に掲示されるポスター作品を手掛けさせていただいた時は、自分たちの作った作品が多くの方の目に触れて本当に嬉しかったです。

また、グラビアアイドルの方が身に付けられる衣装を製作した際には、下の部分からニットがほぐれていくようにとのご要望をいいただきました。それを実現するのは想像以上に難しかったのですが、ニッターさんたちの知恵とテクニックを結集して実現することができ、すごく達成感がありましたね。

作りだしたものの価値を認めてもらい証しとして対価をいただく

トヨヒデさんにとって、編み物は趣味の域を超えて「仕事」になっていると考えていいですか?

私にとって編み物は、趣味であると同時に仕事でもある、という気がします。趣味と仕事の境目がない、という感じでしょうか。もちろん、編み物や手芸は純粋な趣味として楽しめるということも魅力のひとつです。でも、私の場合、インターネットやSNSというメディアを通じてスキルを発信することで、 「作りだしたものの価値を認めていただいて、その証しとして対価をいただける」と言うネットワークができ、そこに喜びを感じるようになりました。

▼iPadを使った編み図作成作業

経理の仕事もしているのですが、編み物の仕事の場合は、自分の裁量でできる部分が大きくて、その意味でもやりがいがあります。「knit-c」に集ってくださっているニッターさんたちも、「身に付けた技術を何らかの形で発信したい、価値を認めてもらいたい」という動機でご参画されているのだろうと思います。個人でやっていることですので、けっして大きなビジネスというわけではありませんが、ニッターさんのそういった想いもとても嬉しいですし、これからも継続していければと思います。

そして、最近、こうした「趣味との境目のない仕事」を取り巻く環境は、変わってきているとも感じています。「knit-c」を見た企業の方からの紹介で、中国の工場に製作を発注する機会をいただくなど、個人の発信が企業の新しい着想につながることもあると感じています。

作りたいものに向き合うことの積み重ねが「個性」になる

今後の夢をお聞かせください。。

「kinit-c」を開設以来、オーダーニットの製作以外にも、雑誌や書籍への作品掲載、子供さん向けの編み物教室の運営など、活動の幅がかなり広がりました。書籍づくりに関われたことはとても誇らしいことですし、子どもさん向けの教室も刺激があってとても楽しいです。同時に、私としては、原点に立ち戻り、自分の作品づくりにもう少し力を入れていきたいという思いも持っています。

同時に、一人の作りてとして、そうした情報のみに振り回されない、と言いますか、いったん、心をまっさらにして、自分の「作りたいもの」に向き合うこともすごく大事だとも思うのです。個性というものは、その積み重なりによって形作られ、磨かれていくのではないでしょうか。こうした積み重ねを意識し、作りてとしても成長していきたいですね。

最後に、手しごとを何らかの形で「仕事」にできればと夢見ている読者にメッセージを。

仕事としてやるからこそ、「楽しんでやる」ということを大事にしていただきたいなと思います。仕事としてやるには継続することが基本だと思うのですが、長く続けていると、どうしても、行き詰まったり、楽しくなくなったりすることってあるんですよね。趣味であれば、やめてしまえばいいのですが、仕事となるとそうはいきませんよね。だからこそ、そんな時は、あまり無理をせず、いったん、少し離れてもいいと思うんです。距離をおいているうちに、「やりたいな」と思う気持ちも戻ってくるのではないかと思います。

作りてであると同時に仕事人であるトヨヒデさんの真摯でありながらしなやかな姿勢に感銘すると共に、インターネットやSNSが浸透するにつれ、「仕事としての手しごと」の可能性が広がってきていると感じました。本日は、ありがとうございました。
※2020年07月時点の内容になります。

トヨヒデカンナさんの作品一覧はコチラです。
プロフィール
トヨヒデカンナさん
幼稚園時代に祖母から手芸を習い、ぬいぐるみの洋服を手作りして編み始める。 一時は手芸から離れていたが出産をきっかけに編み物を再開。教室に通い編み物講師の資格を取るなど腕を磨くと同時に、ホームページづくりにも関心をもち、2002年にknit-c(ニットシィ)のホームページを開設。ニットデザイナーとしてデザインを手掛けると共に、製造のプロ=ニッターさんたちとのネットワークを築き、オーダーを請け負うように。現在、オーダーニットやイベント用ニットの制作、雑誌などへの作品提供、商品企画、編み図・レシピの制作など幅広いジャンルで活躍。現在まで共著を含め20冊以上の編み物本に作品を提供している。 (プロフィールは記事掲載時のもの)
てといとのプロフィールページはコチラ
knit-c(ニットシィ)ホームページ
https://knit-c.com/
詳細URL
トヨヒデカンナさんFacebook
画像・テキスト資料出典
画像は全てトヨヒデカンナ

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