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デンマークの手芸留学で見つけた、自分が本当に好きなこと、そしてやりたいこと。

2019年デンマークのスカルス手工芸学校に留学し、その様子を「デンマーク手工芸便り」でてといとに連載してくれたmaacoさん。1年の手芸留学を終えて、無事に帰国されました。デンマークではどんなことを学び、何を感じたのか、伺いました。

まずは、おかえりなさい!デンマークでの1年間の手芸留学を終えた今、率直にどんなお気持ちですか?

ただいま!自分の夢がかなったという気持ちもあるし、実際行ってみたらそんなに遠い世界ではなかった、という感じもあります。そもそもヨーロッパに行ったこともなかったので、ちょっと身構えていましたが、案外すんなり…思った以上に北欧の暮らしになじめたという感じです。

私が行っていたスカルス手工芸学校は、コペンハーゲンからバスで5時間の小さい町にあり、少し歩くとフィヨルドがある自然に囲まれた場所でした。そこでの寮生活は、ご飯も美味しくて、窓から自然が見えて、部屋も新しくはないけれど大事に使われてきた家具や手作りの小物が飾られていて、とても居心地が良かったです。朝から夜遅くまでやってみたいことに取り組める日々で、スカルスに行っていた半年間は、本当に、毎日起きて一日が始まるのが幸せでした(笑)。

▼自分の「好き」を集めて授業で作ったスクラップブック


誰もが憧れるような、素敵な毎日だったんですね。授業はどのように進められましたか?

最初先生がデンマーク語で説明したあとに英語で説明してくれて、わからなかったら英語で聞くという感じです。英語で手芸をすることは初めてだったので、始めは技法や作りたいイメージの英語表現にちょっと苦労しました。

授業は、教科書どおりに課題のものを作りなさいというのはあまりなくて、まず基本を一度やって、例えば刺しゅうだったら何々ステッチみたいなことをみんなでやったら、「さあ、どうぞ」みたいな(笑)。好きなもの、やりたいことを自分で考えてやってね、ということなんです。初めは、何を作ったらいいのか、自分がどれくらいのことが出来るのか、この時間の中でどこまで出来るのかも想像できなくて悩みました。


自由にと言われるほど難しいことはないですね。

先生には「あなたはどうしたいの?」ということをよく聞かれました。これを作りたいと言えば、それは無理と言われることはほぼなくて、とことんつきあってくれるんです。例えば、全くの初心者がドレスを作りたいとか、立体裁断でぴったりした服を作りたいと言っても作らせてくれました。それが仕上がるまでとことん続けてもいいし、途中でやめてもいい。手工芸学校では成績や評価ではなく、自分が満足できるものを作れるかどうかということが大事なんですね。日本の勉強の仕方とは全然違うので、本当に人によってつくるものが全然違いました。

私はそもそも優柔不断なところがあるので、どうしたいのか決められなくて。先生が来ても「まだ考え中」と言うと先生は他の生徒のところに行ってしまうので、自分が何をつくりたいのかを、常に考えておかなければと思いました。そして、「日ごろ気になっているものがあれば、“自分に出来るのだろうか?”と考える前にまずやってみることで、次に必要なものが見えてくる」と思うようになったんです。
そうして、自分の中にあるアイデアとか、日ごろ見て良いと感じた色やデザインを、ちゃんとメモして残しておいて、いつでも使えるように準備するようになって、そこからはだんだん楽しくなってきました。

▼様々な糸で色の組み合わせを考えてサンプル作成


考え方も変化したのですね。印象的な授業はありましたか。

学校の建物の中で、気になる部分をスケッチしてくださいという授業がありました。ドアノブでも電灯の一部でもいいので、スケッチしてアイデアを膨らませて、テキスタイルのデザインにしましょうと。
最初は全然できなくて、すぐに自分が知っているカタチに押し込めたくなりました。こうしたらおしゃれっぽいなとか、知らず知らずのうちに流行りっぽい、どこかで見たようなものになっていて。また、逆に誰かの真似をしたらダメ!という気持ちに捕らわれて焦ってしまったり。授業の終わりにひとりずつ自分が作ったお気に入りのデザインを発表する時間があったのですが、私が作ったものは何ひとつ好きだと思えなかったんです。

先生は「もっと自由に遊んで!」と言ってくれました。その日は少し落ち込んでいたのですが、次の日から「自分が見つけた形で遊んで、新しいアイデアを見つけるという授業なんだ」と、考えるというよりその時間を楽しむことを意識し続けるうちにふっきれてきて…。クラスの最後にはスノードロップの花からデザインを起こし、ニットのパターンを製作することができました。
自分が素直に面白いと感じたことから広げていくと、それがオリジナルになると思いました。そして、アイデアは特別な場所に行かなくても、すぐそばにあるんだということがわかりました。

そうして、スカルスで学んだ半年間で織物、編み物、ソーイング、籠編み、シルバーで作ったアクセサリー、ボビンレース…など、小さなものも含めると50作品くらい作りました。

▼糸は植物染めし、アイスランドのパターンで編んだ三角ショール



スカルス手工芸学校を修了した後の半年は、グレーベ織物学校に行きました。

コペンハーゲンの近くにある織物と染色の学校でした。私がとっていたコースはシャフト織りです。スカルスで初めて織物を経験したのですが、それまで一番好きだと思っていたニットと同じくらい織物が楽しいと感じて。織物は機材の必要もあるので、デンマークで学びを続けることにしました。経糸と緯糸に何を選ぶかで全然出来上がるものが違うし、同じ糸でも1センチあたり何本入れるかで色も手触りも全く変わります。編み物と違って平面しか作れないという縛りはありますが、パターンもたくさんあるのです。

それに、機織り機を操ることがとても幸せだったのです。織物も、編み物のように慣れてくるとリズムがあって、それがすごく楽しくて。帰国のギリギリまで続けていましたが、思っていたサイズまで到達できなくて経糸だけ残して泣く泣く帰ってきました…。

▼古いパターンブックから作品用にリサイズして写したデザインと、色のサンプル


1年間過ごした、デンマークでの暮らしはどうでしたか?

日本に比べると手編みのものを身に付けている方が多く、生活の中に手づくりが馴染んでいると感じました。おばあちゃんがやっている編み物を自然に習う、という流れが続いているのかもしれませんが、若い人が電車の中で編んでいる姿もよく見かけました。特に地方ではそういう流れが残っているようです。

毎日の暮らしに関しては、家で過ごす自分の時間をとても大事にしているのが印象的でした。一度伺った、スカルスの先生のご自宅が本当に素敵だったのです。家の外観も、家具も、手入れされたお庭も。古いものをとても大事にしていて、おばあちゃんの時代のものとかひいおばあちゃん時代の家具やテーブルクロスが、今の暮らしに馴染んでいました。
セカンドハンドショップも街中にたくさんあったので、生活の中に古いものを取り入れることが自然なんだろうなと思いました。

これからのmaacoさんの活動を教えてください。

まずは、デンマークで始めた織物をもう少し続けたいと思っています。糸を見て何を作ろうかと考えてる時が好きということが確認できたので、織物と編み物をメインに製作活動していきたいと思っています。
また、デンマークや他の北欧の国をまわって、蚤の市やセカンドハンドでかわいいハンドメイドのものをたくさん仕入れてきました。まずはデンマーク留学中の作品や生活の様子をまとめた作品展を3月に東京で開く予定です。

さらに今後の予定としては、もっと作品づくりの経験を増やしたいということと、少し先の予定としてもう一度ヨーロッパに行きたいと思っています。自分の知らないこと、学びたいことがまだまだたくさんあるということがわかった1年だったとも感じています。

▼アルパカシルクとウールを使い、スウェーデンの伝統柄で製作した織物


最後に、手芸留学を考えている方へメッセージをお願いします。

行ってみましょう(笑)。行った後どうしようとか、意味あるのかなと考えてしまうかもしれませんが、踏み出してしまえばなんとかなります。私より一足早くスカルスから帰国した方たちも、それぞれ自分のやりたい事を日本で見つけています。一度チャレンジしたことで見えてきたこともたくさんあるし、そこから先に進むことはできるので、怖がらずに踏み出してみましょうと言いたいです。

作品づくりの根本的な考え方からデンマークで学んできたmaacoさん。たくさんの知識と経験と、そして前進する力を得てきたのですね。これからそれがどんな作品になってゆくのか、本当に楽しみです!

※2020年01月時点の内容になります。

◆maacoさんの作品一覧はコチラ
◆maacoさんの連載エッセイ「デンマーク手工芸便り」はコチラ
プロフィール
maacoさん
手づくりの好きな両親のもと、幼い頃から手芸を始める。 自由学園中等科、高等科にて生活美術、裁縫などを学び、暮らしに寄り添ったものづくりの楽しさを深める。 2010年より、主にニットを用いた作品の展示、販売を開始。 2015年、「暮らしのなかの贈り物」をテーマにしたwebセレクトショップ 316(サンイチロク)をオープン。主に商品の企画・制作を担当。2019年1月デンマークに渡り、スカルス手工芸学校、グレーべ織物学校で学び2019年12月に帰国。(プロフィールは取材時のもの)
てといとのプロフィールページはコチラ
Works
Exhibition
2011年/ はなうたぽけっと展(代官山cornouiller)
2012年/しあわせぽけっと二人展(吉祥寺 momo curry)
2013年/女の子ぽけっと展(高円寺 pocke)
2015年/はなうたぽけっと展「喫茶店と私」(吉祥寺 青と夜の空)

Writing
2019年/手芸コミュニティサイト「てといと」連載エッセイ『デンマーク手工芸便り』全5回

衣装協力
2014年/写真詩集「雪の国の白雪姫」PARCO出版 (詩:谷川俊太郎、写真:tsukao、モデル:小松菜奈、スタイリング:谷川夢佳)
2012年/うたかた~まんがで読む谷川俊太郎( 発行:プレビジョン 発売:角川グループパブリッシング モデル:二階堂ふみ、スタイリング:谷川夢佳)
2011年/雑誌spoon.2月号(モデル:二階堂ふみ、スタイリング:谷川夢佳)
詳細URL
fint ! fint ! fint ! 北欧でみつけた手仕事とヴィンテージ展
画像・テキスト資料出典
画像は全て(C) エムデザインオフィス

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