maacoさん「デンマーク手工芸便りvol.4」連載エッセイ
こんにちは。maacoです。
今回のテーマはソーイングについて。
手工芸学校の一番大きなお部屋はソーイングルーム。本格的なミシンやアイロン、トルソーが揃ったこの部屋ではクラス以外の時間も人がよく集まってきます。たまに夜中までミシンの音が聞こえてくることもありました。
自分のサイズにぴったりの原型を作ったエピソードやリデザイン、ファッションショーなど、手工芸学校で学ぶソーイングの様子をお届けします。
私の基本原型を作る
ソーイングのクラスでは最初に自分の原型を作る勉強から始まりました。自分のサイズを測り、そこからスカートやパンツの原型パターンを計算していきます。型ができたら、微調整のためにシーチングの布で仮縫いと試着。そこから更にピン打ちしながら補正していきます。その後も微調整を繰り返しながら自分にぴったりの原型を作りました。根気のいる作業ですが、オーダーメイドのように、ここから私にぴったりの洋服ができると思うとワクワクします。
原型が出来上がったら、自分の作りたいデザインへの展開が始まります。フレア、タイトミニ、マーメイドなどなど、スケッチブックに描いたデザイン画を元に、先生に教えていただきながら型紙を引いていきました。
※手工芸学校のソーイングルーム
何でもチャレンジできるソーイングの授業
パターンを引いたり、本の型紙を写すだけではなく、ソーイングのクラスは色々なことにチャレンジすることができました。
クラスメイトの中にはお母さんから譲り受けたコートのお直しをする人、子供服を作る人、立体裁断のドレスや厚手のコートといった大作を作る人など、他のクラス同様に作品は人それぞれ。先生は生徒をひとりずつ回りながらアドバイスしてくださります。例えば、スカートにポケットをつけたいと思っても、その種類やサイズ、方法はさまざま。初心者、経験者に関わらず、やってみたいことは何でも挑戦することができました。
私は折角デンマークでソーイングを学べるのだから、ここでしか作れない服が作りたいと思いました。そこで学校で見つけた古いパターンを少しアレンジしてブラウスを作ることに。
参考にしたのは18-19世紀にデンマークの農民が着ていたブラウスのパターン。この本を見つけた時は、「200年以上前のパターンがこうやって本にまとめられているなんて!」と感動してしまいました。この本のパターンのほとんどは四角いパーツを組み合わせて作られていて、一枚の布を余すところなく使っています。その昔、貧しい農民国だったデンマークでは布がとても貴重で高価だったことも影響しているのでしょうか。
※学校で見つけたパターンブックとセカンドハンドで見つけたテーブルクロスを使って
一見直線縫いのシンプルなパターンではありますが、本来のデザインはリネンやコットンの布地に白糸刺しゅうやスモッキングなどを施した、とても手の込んだ手縫いのブラウス。きっとこのパターンは今着ても絶対に可愛いと思い、挑戦してみることにしました。生地は学校の近くのセカンドハンド(リサイクルショップ)で見つけた真っ白のテーブルクロス。周りの皆とは違ったアプローチのソーイング作品ですが、そんなアイデアも自由に取り組めるのがこの学校の良いところ。先生も「面白いね!」と応援してくれました。今回は手縫いではなくミシンを使って制作したのですが、手作りの風合いを残したかったので、袖のカフスにあるボタンホールは手縫いにしました。ボタンホールの周りには白い刺しゅう糸で小さくアクセントを入れたのが隠れたお気に入りポイントです。
もともとスタンドカラーだった襟のデザインはボウタイにアレンジ。また、全体がふわっとしているので、着た時にボトムスとバランスが取りやすいよう、丈感にもこだわりました。
デンマークで見つけた素材、パターン、技法を用い、自分らしさも取り入れながら作ったこのブラウスは、手工芸学校で制作した作品の中でも思い出に残る物のひとつです。
※完成したブラウス。デンマークでの思い出が詰まった作品になりました
身の回りにあるものを使って
私がテーブルクロスでブラウスを作ったように、手工芸学校では身の回りにあるものを活用して作品を作ることがよくありました。それをよく学べたのは「リデザイン」のクラス。名前の通り、古着やテーブルクロス、リボン、広告用の垂れ幕など先生が集めてきた様々な種類の素材や、手持ちのアイテムを使って、新しい作品を作ります。先生が見せてくださった見本は、旦那さんが着古したワイシャツを数枚組み合わせたワンピースや、テーブルクロスで作ったスカートなどなど。とれない汚れや穴が空いてしまった箇所には、刺繍やプリントが施されていて、それがまた素敵なアクセントになっています。ファッション業界でもサステナビリティへの関心が年々高まっていますが、このようなクラスは物を大切にする北欧ならではの学びかもしれません。
何かを作るときに、布屋さんに行って新しい布を買い、デザインを考えるのも楽しいけれど、今手元にある物にちょっと手を加えたり、何かと組み合わせることで新しいアイデアが生まれる。しかも資源を大切にできる。それも素適なものづくりだと思いました。
手作りの展覧会とファッションショー
毎年6月に、手工芸学校では外部のお客様を迎えるエキシビション(展覧会)が開かれます。在学する生徒の作品展示だけではなく、アーティストの出店や講演会、ワークショップ、カフェなど、色々なプログラムが手作りで準備される、学園祭のようなイベントです。
エキシビションでは生徒によるファッションショーも行われました。コンセプト作りから構成、ステージ装飾、音楽、映像、チラシ作り、すべてが生徒の手作りです。学生時代に戻ったかのように皆でわいわい協力しながら作りあげました。
私は最初裏方のみで参加しようと思っていたのですが、成り行きで私もモデルになり、ソーイングクラスで作った服を着てランウェイを歩くことに。初めは気恥ずかしかったですが、練習を重ねる毎に楽しさが増していきました。
遂に迎えた本番。少し緊張しましたが、お客さんから大きな拍手をもらえた時は嬉しかったし、オリジナルの服を着てキャットウォークするクラスメイト達は最高にカッコ良くて、誇らしかった。きっと人生で最初で最後のファッションショー。思い切り楽しむことができました。
こんな風に、作品制作だけではなく、それを身につけて発表するところまで楽しむことができた事は手工芸学校ならではの経験だったと思います。
※エキシビションの様子。ここはモノトーンカラー作品を集めた展示
手工芸学校での学びを終えて
なぜ私は手工芸が好きで、デンマークまで学びに来たのか。それは、手仕事には暮らしに直結している人の手の暖かさがあって、そこに大切な価値を感じるから。
日々の生活の中でデザインが生まれ、物作りを楽しむ時間があり、それを身につけたり、使ったりする。その暮らしの営みには与えられた1日を大切に過ごす心や、周りの人や自分自身を愛おしむ優しさがあります。だから私は手仕事のある丁寧な暮らしに憧れ続けているのだと思います。
手工芸学校での学びは終わりましたが、これからもアイデアがひらめいた時のワクワクする気持ちや、この両手から作品を作り出すことができる感動、それを使う喜びを大切にしながら、私らしく物づくりを楽しみ、深めていきたいとおもいます。
次回は最終回。北欧のクリスマスについてお届けします!お楽しみに。
それではまた。Hej hej!(またね!)
(2019年11月掲載時の内容です)
※エキシビションの展示の様子。屋外にはアーティストの出店やワークショップが並びました
◆maacoさんの連載エッセイ「デンマーク手工芸便り」
「vol.1 はじめまして。デンマーク」
「vol.2 デンマークで編んだセーターのこと」
「vol.3 デンマークで学んだ刺しゅうのこと」
「vol.4 デンマークで学んだソーイングのこと」
「vol.5 デンマークのクリスマス」
◆maacoさんのインタビューはコチラ
プロフィール |
手づくりの好きな両親のもと、幼い頃から手芸を始める。 自由学園中等科、高等科にて生活美術、裁縫などを学び、暮らしに寄り添ったものづくりの楽しさを深める。 2010年より、主にニットを用いた作品の展示、販売を開始。 2015年、「暮らしのなかの贈り物」をテーマにしたwebセレクトショップ 316(サンイチロク)をオープン。主に商品の企画・制作を担当。2019年1月デンマークに渡り、スカルス手工芸学校を修了後、グレーべ織物学校に留学中。(プロフィールは2019年の連載掲載時のもの) |
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