少年の可能性をコンセプトにした、異端児テディベア。 彼らを生み出すのは、自分の気持ちが前向きなときだけと 決めています。
海からの照り返しが広い空をさらに広く感じさせる、明るく抜けた空気感の鵠沼海岸。低層の、どこか海外にいるような気持ちになる白いアトリエに、「menino itang!」ブランドのテディベア作家 五十嵐淳さんを訪ねました。学生時代はエンジニアを目指していたはずなのに情報会社に就職し、さらにテディベア作家となった、自らを異端児と呼ぶ経歴から伺いました。
明るく開放的なアトリエですね。今日は、五十嵐さんがテディベアを作るきっかけや、さらにどんなお話が伺えるのか、興味津々で来ました。
僕がテディベアを初めて作ったのは、まだ会社員だった2012年ですが、今は先生をやっている妻が、テディベアの学校に通いながらコツコツ作っているのを見ていて、ちょっとうらやましかったんです。僕もモノを作るのが好きで、趣味で粘土の造形をつくったり絵を描いたりしていたので、彼女にやきもちを感じて「僕も作ってみようかな」って言ったところから始まりました。
じゃあ作ってみれば?という話になって、まずベアの下絵を描いたんです。そしたら次にこれをいきなりパターンにおこそうって言う話になって。で、僕、エンジニア系の学校だったので製図の考え方はわかるんですね。これはこうなってるからこうだよねって話しながら描いて。ここがくっつくからこう、なんてマンツーマンで教わりながら立体に起こして生地を切って、縫ってみて。で、作ったらこれが出来て。できるじゃんって(笑)。自分で絵を描いたものがこれになった瞬間「面白い!」と思いました。
※五十嵐さんのファーストベアがこちらです
最初から完成度高すぎじゃないですか?でも、すでにモヒカンで異端児なベアになっています。
実は、彼女がテディベア好きだと知っていたので、誕生日とか記念日にはメリーソートのベアをプレゼントするという習慣が以前からあったんです。なかでも僕はモヒカン系のベアが好きだったので、もともとそういう知識はありました。
あとは、フィギュアが好きだったり古着も好きだったので、ベアをちょっとロックな感じにしてみたり、古着をあてたりスタッツも付けてみたりしたら、いい感じになって(笑)
テディベアが持つそもそもの世界観ってあるけど、僕としてはもう少し違うテイストのものがあっても良いのかなって思っていたんです。作り始めの頃、会社の先輩に見せたら「普通のベア作りたくないんだろう、異端なんだろう?」って言われて、まさにその通りだったんで、その名前いいなって嬉しくなっちゃってそのまま付けました。
僕自身が、エンジニアを目指す学校に行きながらなぜか情報を扱う会社に入ったり、みんなと違う道を歩みたいと思っていた異端児なんですよ(笑)。
そこからスタートだったのですね。主にどのような活動をされているのでしょうか。
今は、年に2回テディベアのイベントに出して、あとはオーダー販売とクリーマでの一般販売をやっています。イベントではコンテストもあるけど、2013年の新人の頃から毎年出品してます。自分でテーマを決めてそれに向けて頑張るという、自分のためにやっています。僕のような作風だと賞を取ることは難しいんです(笑)。
オーダーは、情報会社に勤務していた頃に知り合いから「飼っている犬のテディベアが欲しい」という依頼を受けたのが最初です。それからは「子供が産まれたからその子供に向けたベアが欲しい」とか「結婚式のウエルカム用ベア」、「娘が海外の大学に行くので家族のベア」…と会社関係者からどんどん依頼が来ました。今まで、全て合わせて約200体くらいのベアを送りだしています。
※初めて描いたベアの下絵がこちら
オーダーの時は、ご本人に似せたベアを作るのですか?
どういう想いでなぜ作るのか背景を聞いて、イメージや色、生地を一緒に決めていきます。最後に写真を見せてもらって参考にするので、最終的にはすごく似るんですよ。自分で言うのもなんですが、本当にそっくりだって言われます。
でもそれが目的ではないので、僕の世界観をわかってもらえる方にご依頼いただいて、2ヵ月という期間だけ決めて詳細はお任せいただくということにしています。
オーダーのときに、その方の人生を教えてもらいながら、じゃあこういうテーマにしましょうって決めるんだけど、渡す時には涙して喜んでくれることもあったり、そこからいろんなドラマが生まれたりするので、ものを創ることを通して影響を与えられるものなんだなって。熊って神秘的な生き物だし、このベアが何かその方の人生に多少なりとも介在できることがおもしろいなと思います。
お客さまとの印象的な出会いがあれば、教えてください。
クリーマのハンドメイドフェスに出店した時に、ご家族が僕のブースに来られて、その息子さんがぼくのネコベアが気になったみたいだったんです。一度見たあと、イべントの最後にもう一回来てくれて、ご購入いただいたのが印象的でした。実は、そのネコは双子ちゃんとして展示していたもので、悩んで1体を選んでくれたんだけど、もう 1 体の方をその後クリーマのサイトに載せる気になれなくて、ずっと自分の手元にとっておいたんです。でも、それから 1 年経って、サイトに載せたら、すぐに、そのご家族が購入してくれて。「双子ちゃんたちをまた一緒にしてあげることができた!」って喜んでくれたんですよね。 ご家族の中で、僕のテディベアがそんな存在になってくれたのが本当に嬉しいなって。
五十嵐さんのテディベアが、もはや家族になっていたのですね。
そんなベアを作るときの、何かこれだけは譲れないというこだわりはありますか?
僕は、これを商売でやっているわけではないんです。本業は他にあるので、ベアを作るのは、オーダーを受けたときと、あとは作りたいという気持ちになった時に一気に作ります。毎日コツコツ作る感じじゃないんです。
自分の気持ちが反映されちゃうので、落ち着いていて前向きになっているときに作らないとダメですね。
最初の頃は、縫い方とかテクニックの部分でスキルアップしているというのはあったけど、今は、最後に作るのが僕のベストだといつも思っています。作るたびにそれが更新されていくという感じ。自分の中でね、うまくなっているんです。
こだわりは、自分のセンスっていうところでいろいろあるんですけど、普通の目をつけるのは僕っぽくないかな。時にはアンティークボタンを探し出して使ったりとか、ベアには普通使わないドールアイを使ったりとか。付ける方法も自分で開発してっていうことをしてます。本当は、目も自分で作れたらいいと思うんですけど。あとは爪をつけたりとか、そういうこだわりを持ってやっています。
作るたびに自分のベストを更新…すごくいい言葉ですね。
最後に、五十嵐さんの今後の夢や目標を教えてください。
作り始めの頃から思っていた、テディベア好きの正統派の人たちから裾野を広げて、テディベアを買ったことがないような男の人や若い子たちにいいなって思ってもらえるものを目標にしています。テディベアのショップではないところ、雑貨屋とかセレクトショップとかに置いてもらえたらいいなぁと。
あとは、長く続けること。これまで買ってくれた200人の方に恩返しするような気持ちで続けたいと思っています。70歳のおじいちゃんがテディベア作ってたら、異端じゃないですか!(笑)
気負わず、構えず、自分らしいテディベアをいとも簡単に生み出してしまうような印象を受ける五十嵐さん。でも、分厚いパターンブックには、これまでのこだわりが詰め込まれています。じっと見つめられると離れられなくなる異端児たちは、かなり危険。
五十嵐さん、ありがとうございました。
※2019年12月時点の内容になります。
五十嵐さんのテディベア作品一覧は→コチラです
プロフィール |
五十嵐 淳さん 「menino」はポルトガル語で少年。少年の可能性をコンセプトに異端児テディベアを志向。2012年からテディベア製作をスタートし数十パターンの型を保有。ベア、ウサギ、ネコ、ナマケモノ、鳥、犬など新作を随時リリース中。 【実績】ハンドメイドフェスティバル@東京ビッグサイト、丸の内ストリートマーケット、ジャパンテディベアフェスティバル@恵比寿ガーデンプレイス、日本テディベアコンベンション、西武池袋百貨店(プロフィールは記事掲載時のもの) てといとのプロフィールページはコチラ |
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