毛糸を編み込み、本物そっくりの愛犬をつくるあみぐるみ。多くの人に喜びや癒しを与える存在に
さまざまな種類の毛糸を編み込み、まるでそこにいるようなワンちゃんを作り上げる「もんぱぴmonpuppy🄬」眞道美恵子さん。「うちのコそっくりに作って欲しい」というリクエストに応えるために培ってきた技術や、作る楽しさをレッスンでも伝えています。犬のあみぐるみと出会ったきっかけは?なぜ実物のワンちゃんに似せて作るの?お話を伺ったら、幼少期から好きだった手芸、絵の勉強、会社員経験、結婚、子育て……彼女の一つひとつの人生経験すべてが、あみぐるみの製作とつながっていました。
「手芸を通して、つながる」新しい価値を見出した、あみぐるみとの出会い
あみぐるみをはじめたきっかけを教えてください
小さな頃から手先を動かすことが好きで、二人の姉を真似ては編み物や洋服作りをしていました。絵を描くことも好きでしたので美術大学へ進みましたが、在学中も絵の勉強よりも編んだり作ったりの方が好きでした(笑)。卒業後は繊維会社に就職し、ホームインテリアのデザイナーとして約10年間、テーブルクロスやキッチン周りの小物などの企画・デザインの仕事を行い、出産を機に退職しました。子供たちのキルトや洋服、雑貨作りなどを楽しんでいましたが、手芸は趣味であり、自分の作品が誰かに役立つとか、家族以外の方に喜んでもらえるものであるとは考えませんでした。ましてやそれが仕事になるとも……。
私の手芸人生の大きな転機となったあみぐるみとの出会いは50歳の時。もう手芸は卒業しようかな、と思っていた矢先のことでした。子育てを一段落した周囲の友人たちが犬を飼い始め、うちでも娘の希望で犬を飼い始めたのです。ママ友が「こんなかわいい本みつけたの!」とあみぐるみ作家のほし☆みつきさんの本を見せてくれました。ほし☆みつきさんの作品は、単なるマスコット人形ではなく、ワンちゃんの特徴を可愛いらしくとらえた作品です。早速、本を見ながら家にあった余り毛糸で作ってみたのですが、あみぐるみ作りはほぼ初めて。四苦八苦しながら3作目でようやく自分でも納得のあみぐるみが完成。そして本を紹介してくれたお礼に、友人の愛犬の特徴を真似て作りプレゼントしたのです。
その作品を手にした友人の反応が印象的で、愛犬に似ていることやその愛らしさに感動し、驚くほど喜んでくれました。しかも「お友達のワンちゃんも作って欲しい!」とオーダーしてくれるではありませんか。他の友達からの依頼も増えて、「ありがとう!」というみなさんの言葉に、大きな喜びと感動を味わったことは言うまでもありません。そしてそれは、今までと違う感覚だったのです。
それまで私が続けていた手芸は、家族などごく親しい人に向けたもの。ですが、愛犬のあみぐるみによって、人に喜んでもらえる、認めてもらえる、愛犬との暮らしの楽しさが分かち合える、人と犬とつながることができたのです。自分の中で完結していた自分の楽しみのための手芸が、「つながる」という新たな価値を持って外へと飛び出していった瞬間でした。
▼シベリアンハスキー
作品展参加→個展開催→教室運営!怒涛の速さで教室をスタート
初めはストラップ人形を作っていたのですが、だんだんとワンちゃんに似せて、チョーカーやお洋服などもオプションで作るように。ペットショップやドッグカフェでの委託販売も始まり幅広くオーダーを頂けるようになりました。
小さい作品は1つ1000円~2000円のお代を頂いていたのですが、オーダーにはさまざまなリクエストがあり、工夫も手間もかかるため少しずつ制作費を上げさせて頂きました。作品の幅を広げようとブログでもオーダー募集をしたところ、「教えて欲しい」という方もいてレッスンを考えるようになりました。とはいえ、私の編み物は自己流、学んだことがありません。人さまに教えるのならば基礎を知らなければ!と、かぎ針編みの講師資格も取り、幅広く学べる手芸作家の小須田逸子先生のお教室に通い始めました。
当時先生は、手芸作家さんの活動に門戸を開いてくださっていましたので、その年の作品展に参加させて頂けることになり、2015年12月小さなトイプードルの編み図や、似顔絵あみぐるみなどいくつかの作品を出品。かぎ針編み好きの方々が関心を寄せてくださり、私自身大いに満足して終えることができた……と思っていたのです。しかし小須田先生は、「みなさんが注目している間に、すぐに個展を開催したほうがいい」とアドバイスしてくださったのです。直ちに会場を探し、準備を行い、作品を作り足し、翌2016年3月に個展を開催。
その後、ひと息つく間も無く再び先生から、「みなさんが個展を忘れないうちに教室を開いたほうがいい」とのアドバスが……えーっカリキュラムも無いのに!とびっくりです。しかし、編み図を作っていたことが幸いし、ひと月後の4月には何とかレッスンスタートにこぎつけました。
先生の待ったなしのご指導に素直に従って(笑)、短期間のうちに力戦奮闘できたのは、デザイナー時代に企画がボツになってもへこたれず、繰返し提案して、期日に間に合わせて仕事をしてきた、そんな経験があったからだと思います。どんな経験も無駄にはなりませんね。そんな風に四苦八苦しながらスタートしたお教室も今年で5周年になります。
コロナ渦で対面レッスンが難しくなってからは、すぐに1対1のオンライン講座をはじめました。30分と決めてポイントをお伝えするのですが、やってみると30分あればかなりの量の情報をお伝えできることがわかりました。またオンラインだけでなく、メールやチャットで作品の画像に修正点を書き込んでやり取りするレッスンも行っています。イギリスやオランダに住む生徒さんともレッスンを行っていますが、遠隔でも解説がわかりやすいと言って頂けるのはありがたいですね。
▼2020年作品展
毛並みも、シルエットも、重さも。本物のワンちゃんに似せて作るあみぐるみ
作品を作る際にこだわっているポイントは何ですか?
実物のワンちゃんに限りなく寄せて作ることです。初めての作品は、足を筒型に細く編むことさえできませんでした。やむなくリリアンで仕上げたほどです。失敗を重ね、かぎ針編みの技術を身につけるうちに、胴体を長くしたり、顔の細いコは細く丸いコは丸く編んだりと、「リアルをより追求したい」という気持ちになりました。絵の勉強をしていた学生時代、実物をみてデッサンする練習を繰返してきたせいもあるかもしれません。「似せる」ため作り方はワンちゃんによって一つひとつ異なります。作り方の見本はワンちゃん自身、というのも私の作品の特徴です。
はじめは耳をふわっとさせて、それ以外の顔や胴の部分は編み目のままの作品を作っていました。そのうち生徒さまやご依頼者さまから「全身毛糸を埋め込んで本物の毛並みのようになりませんか?」「実物と同じ大きさや重さで抱っこできるようなあみぐるみが欲しいです!」とリクエストを頂くようになりました。毛糸の太さや種類を変えて、あれこれ試し、研究を重ねます。例えば、極太毛糸をほぐすとくるくるとしたトイプードルの感じになったり、マルチーズのような真っ直ぐな毛は本物のように見える毛糸の種類とそのコツがあったりと、アイデアが沸いてきます。それをレッスンでお伝えしたり、作品に反映できたりすると、みなさん驚いてくださるので嬉しいですね。
▼フレンチブルドッグ・トイプードル 大きなサイズのあみぐるみ
毛糸のかたまりの中から「ウチのコ」が現れる!その瞬間があみぐるみの醍醐味
あみぐるみを通して学んだことや、感じていることがあったら教えてください
愛犬に似たお人形を作りたいと、編み物に遠ざかっていた方もレッスンに参加されます。また編み物は好きだけれどあみぐるみ作りは初めて、という方も多いですね。あみぐるみ作りの面白さは、毛糸玉が「うちのワンちゃん変わる瞬間」を味わえること。顔周りの毛糸のカットをし、目の周りがすっきりしてくると、ただモシャッとした毛糸のかたまりの中から突然!愛犬が「こんにちは」と言っているように、顔を出すのです。全体の毛並みやシルエットを整えていくと、可愛いうちのコそのものに。その時間が感動的で、みなさん本当に喜ばれます。
生徒さまの中には、ワンちゃんを亡くされた方もいらっしゃいます。ペットロスの悲しい気持ちを人に話したり伝えたり、心を癒す場所って中々無いし、難しいのですね。でも製作を通して、作る時間そのものや、お人形に姿を変えた愛犬とまた会える楽しみとか、あみぐるみの重さや手触りなどが、心を癒すことにつながっていくのではないかと感じています。そういった意味であみぐるみは、特徴のある手芸だと思うのです。
試行錯誤しながら作っているあみぐるみですが、みなさんから頂くものに刺激を受け支えられ、自分の想像を超えた存在になっていると感じています。
▼「抱っこしたくなる あみぐるみワンコ」2020年12月、日本文芸社より出版
今は、どんなことに挑戦していますか?
ワンちゃんのあみぐるみの製作を通して培ったものを本にまとめましたが、「猫のあみぐるみの本」を出すお話も頂いています。今は、みなさんに「うちのニャンコに似ている!」「可愛い」と言ってもらえる作品をお届けできるようにすることが目標です。
また、私のようにオーダーを受け作品を作ったり、人に教えたり、私の作るものに賛同頂ける方に作り方をお教えしたいと思っています。実は、毛糸選びや大きさを変えるコツなど、かなりマニアックな世界。ワンちゃんの体型のバランスを考え、スケッチを元に編みながら作る方法もあります。オリジナルなあみぐるみを作りたいという方に、お伝えしたいことがたくさんあります。オリジナル作品は「アート」としても認めてもらえ、オーダーの価格帯も製作の励みになると思います。作家活動として、仕事としての価値をあみぐるみに見出していけたら嬉しいですね。
▼バッグチャーム
素材に生命を吹き込む。それを人に喜んでもらえることが「手芸」の魅力
眞道さんにとって「手芸」とは何でしょうか?
小学校のボランティアで子どもの絵画教室をしていた時の話です。好きな形にちぎった小さな紙に、目を描いてもらう課題を1年生の一番初めに取り組んでもらいました。たったそれだけのことですが、1片の紙きれが、小さな点によって人の顔に変化するのです。手芸も同じようにごくシンプルな材料、例えばあみぐるみだったら「毛糸」、刺しゅうだったら「糸」が、人の手によって形を変え命が宿る。素材の中に自分の手で生命を吹き込むことができて、それを家族や周囲の人が喜んでくれる楽しさや幸せがある、それが「手芸」だと思うのです。
それまで手間と時間をかけて作っても、自分が嬉しいだけ、自己満足なだけ……もう手芸を卒業しようかと思った時もありましたが、今は続けてきて本当に良かったと思っています。精神的にも手芸に支えられているとも思っています。私が経験し歩んできたすべてが今につながっているのですね。あみぐるみと出会い、多くの人に喜んで頂けたことで、「手芸」には素晴らしい力が宿っていると気づくことができました。
※2021年9月時点の内容になります。
プロフィール |
眞道 美恵子さん 1961年生まれ、長野県出身。 多摩美術大学日本画科卒業後、繊維メーカー企画室のホームデザイナーとしてキッチン・インテリア商品の企画開発を行う。 出産を機に退職し、子育ての傍らボランティアで10年間造形・絵画教室を運営。愛犬を迎えいれたことからあみぐるみ作りをはじめる。 愛犬の代わりとして可愛がることができる、本物のような大きなあみぐるみ作品が特徴。 2012年11月monpuppy🄬商標登録 2013年1月 ブログよりオーダー製作開始 2015年/2016年 トレマーガ展(手芸作品展)参加 2016年3月 吉祥寺にて初個展開催 2016年4月 あみぐるみ教室開講(吉祥寺) 2017年6月 あみぐるみ教室開講(銀座) 2020年2月 オンラインあみぐるみ教室開講 2020年12月 「抱っこしたくなるあみぐるみワンコ」(日本文芸社刊)を出版し、現在3刷。 (プロフィールは記事掲載時のもの) |
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