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maacoさん「デンマーク手工芸便りvol.3」連載エッセイ

こんにちは。maacoです。

今回のテーマは、刺しゅうについて。
デンマークの手芸といえば、刺しゅうを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。第一回のお便りでもお話した通り、私自身デンマークの手芸に興味を持ったきっかけは、子供の頃に母から見せてもらった北欧刺しゅうの本でした。

針と少しの糸さえあれば気軽に始められる刺しゅう。でもデザインの可能性や奥深さは無限大。
まだまだ初心者の私ですが、デンマークの手工芸学校で学んだことや、蚤の市で見つけたヴィンテージなど、刺しゅうを通して感じた事をあれこれお話していきます!


アイデアいっぱいの刺しゅうクラス

スカルス手工芸学校にある刺しゅうの部屋には、先生の作品がお洒落に飾られています。教本や図案も新しいものから古いものまで沢山あり、自由に使うことができます。作業する机には、手元を照らすライト付きの拡大鏡もあって、細かい針仕事をするのにとても便利でした。

編み物のクラス同様、基本的なステッチを皆で学んだ後は、それぞれが作りたいものを先生と相談しながら制作します。ハンカチやトートバック、ソーイングのクラスで作る服や、ステンシルで絵柄をプリントした布地に刺しゅうする人も。アルファベット、花、人物、ペット、食べ物などなど、絵を描くように、時には立体的にも作ることができる刺しゅうの可能性は無限大。おしゃべりしながら思い思いの作品を作って過ごす刺しゅうクラスの一日はあっという間に過ぎていきます。

私が手工芸学校で作った物の中で気に入っているのは、刺しゅうした布地を使って作ったノート。刺しゅうの先生が受け持つ手製本の選択授業で作りました。図案を専用の針とインクでトレースしたら、ステッチの技法を先生と相談しながら決めていきます。同じ図案もステッチと色が違えば全く違う印象になるし、刺しゅう糸の色を決めても使う糸の本数によって色や風合いが違って見えたりして、やっぱり刺しゅうは奥が深い。刺し終わった後は、接着芯を貼って製本しました。まだまだ初心者ですが、試行錯誤した分だけ、大切な作品になりました。

※手工芸学校で作った刺繍のノート(ステッチ等の詳細について作品公開しています


デンマークの白糸刺しゅうに挑戦

デンマーク刺しゅうといえば白糸刺しゅうのヒデボー。布の織り目一本一本を数えながら進める緻密な作業です。もちろん手工芸学校でも習うことができました。初めは糸を数えるだけでも大変で、気が遠くなるようでしたが、だんだん慣れてくると時間を忘れてしまう位に集中して、白糸刺しゅうの世界にのめり込んでいきました。
蚤の市やアンティークショップなどに行くと、白糸刺しゅうのテーブルクロスやナフキンを見つけることがしばしばあります。私は一晩かけても数センチしか進まないのに、このテーブルクロスはどれだけの手間暇をかけて作られたのかと思うと、会うことのできない作り手の技術に感動と尊敬の気持ちでいっぱいになりました。また、愛情をこめて作られたこのクロスが家庭の生活の中で大切に使われて、保存されてきたのだと思うと、簡単に測ることができない手仕事の価値を感じます。

※蚤の市で見つけたの白糸刺しゅうのハンカチとクロス



じわじわと人気が広がる日本の刺繍

最近日本でも人気が高まってきている、こぎん刺しと刺し子。デンマークにもその波が届いているようです。先日、コペンハーゲンの手芸屋さんに立ち寄った時に日本の刺しゅうキットを見つけました。幾何学的な模様はヨーロッパの伝統的な図柄のセンスと通じるものがあるようです。

スカルス手工芸学校でも課外授業でこぎん刺しと刺し子のクラスが開かれていました。学校で出会った数人からはアイヌ刺しゅうについて話しかけられたこともありました。日本の手工芸に興味のある方が増えているようです。それから私も日本の手芸についてもっと知りたいと思いました。帰国したらぜひ挑戦してみようと思います。

※コペンハーゲンで見かけた刺し子キット

いかがでしたでしょうか?実のところ、初め私は刺しゅうに少し苦手意識があったのですが、手工芸学校で色々な技術を学びながら、自分の好きな図案に挑戦したり素適な作品を見たことで、だんだん刺しゅうの時間が楽しくなっていきました。また、日本の手芸にも興味が広がるきっかけにもなりました。

続いて、皆さんから頂いた質問にお答えしていきます!

「お茶の時間があるとのお話がありますが、どんなスイーツや暖かい飲み物が出てくるのか気になります。」

1日に3回(!)あるお茶の時間は、みんなの毎日の楽しみです。
「今日は何だろう」「キッチンからチョコレートの匂いがした!」など、授業中の話題になることもしばしば。

午前中のお茶の時間はフルーツやナッツ、午後と夜は、ケーキや、焼きたてパンに手作りジャムなど手作りのお菓子が出て来ます。飲み物はコーヒー、紅茶、ホワイトティーの3種類。
今日は中でも私のお気に入りを紹介します!

シナモンロール
北欧に来たら是非食べたいと思っていたシナモンロール。ロールケーキのように大きく焼いたものを切り分けていただきます。

ラムボール
ほぐしたチョコケーキにラム酒をまぜてボール状にし、ココナッツをまぶしたお菓子です。レーズンやクルミが入っている事もありました。お店でみかけるのはもっと大きいものが多いようです。ブラックコーヒーとぴったり。

※大好きなシナモンロール。好きなだけ切り分けていただきます


「デンマークではいつでもどこでも編み物をしているとのことでしたが、どれくらいのペースで作品を作っているのでしょう?」

作品の難易度にもよりますが、手芸学校の約半年のコースではひとり1〜2枚ほどセーターを編んでいるようでした。ひとつの作品に集中する人もいれば、いくつかの作品を同時に進めている人もいるので、ペースは人それぞれ。個人的な印象では、デンマークの手芸店の毛糸は中細以下の細めの糸が多く、セーターもハイゲージで編んでいる方が多いようです。ノルウェーやスウェーデンの伝統的な編み込み模様もこまやかなものが多いので、細い糸でぎゅっと編まれた、暖かいセーターがこちらでは伝統的であり、好まれているのかもしれません。

大切に1日を過してこそできる、素適なものづくり

デンマーク人は時間の切り替えやリフレッシュが上手だと思います。お茶の時間を大切にするし、授業以外の時間はプライベートタイム(運動、家族と電話、リラックスする時間)をしっかりとっているようです。私を含め日本人生徒は遅くまで教室に残って作業をしている事が多くて、クラスメイトからは「さすが日本人だねぇ」と言われることもありました。根詰めてしまうのは、やはり国民性なのでしょうか。

※学校で見つけた古い白糸刺しゅうの本

手工芸学校にいる間は「せっかくここで学んでいるのだから!」「早く完成させて次の作品が作りたい!」という気持ちが強くて、夜遅くまで作業することが多かったのですが、作業時間と作品の出来は、比例するのかというと、必ずしもそうではなくて。むしろ、からだが疲れてしまうと、集中力だけでなく新しいアイデアをキャッチする力も弱ってしまうのを感じました。

効率やコストパフォーマンスを重要視する生活に慣れてしまうと、手仕事の時間でさえ「かけた時間やお金に見合ったもの」とか「それ以上の成果」による満足を目指したり期待してしまって、誰にも急かされているわけでもないのに焦ったり、時に妥協してしまう時があります。でも、蚤の市で見つけたテーブルクロスのように、効率とは別のところにある価値や気持ちも大切にしたい。だからこそ、たまに手を止めて、自分にお茶を入れてあげられる心の余裕をいつも持ち合わせていたいと思います。(おやつの食べ過ぎには注意ですが!)

まず自分の心と体を大切にしながら、笑って1日を過してこそ、素適なものづくりができるようになると信じて。今取り組んでいる白糸刺しゅうのハンカチーフも、焦らず丁寧に作る時間を楽しみたいと思います。
みなさんの手仕事の時間が優しい気持ちで満たされますように。

それではまた。Hej hej(またね)!
(2019年10月掲載時の内容です)

◆maacoさんの連載エッセイ「デンマーク手工芸便り」
「vol.1 はじめまして。デンマーク」
「vol.2 デンマークで編んだセーターのこと」
「vol.3 デンマークで学んだ刺しゅうのこと」
「vol.4 デンマークで学んだソーイングのこと」
「vol.5 デンマークのクリスマス」
◆maacoさんのインタビューはコチラ
プロフィール
手づくりの好きな両親のもと、幼い頃から手芸を始める。 自由学園中等科、高等科にて生活美術、裁縫などを学び、暮らしに寄り添ったものづくりの楽しさを深める。 2010年より、主にニットを用いた作品の展示、販売を開始。 2015年、「暮らしのなかの贈り物」をテーマにしたwebセレクトショップ 316(サンイチロク)をオープン。主に商品の企画・制作を担当。2019年1月デンマークに渡り、スカルス手工芸学校を修了後、グレーべ織物学校に留学中。(プロフィールは2019年の連載掲載時のもの)

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画像は全て(C)maaco

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