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子供が見た世界を刺しゅうで表現。家族、大切な人への想いをつなぐ刺しゅう雑貨を。

刺しゅうブランド「hitototori」が扱っているのは「お守り刺しゅう」。できることなら、ずっとそばで見守っていたい・・・・・家族や大切な人へのそんな想いを託す「お守り」となる雑貨を製作しオンラインショップなどで販売、オーダー作品も手掛けているのが刺しゅう作家の伊藤麻梨子さんです。伊藤さんが刺しゅうに魅了された理由とは?「お守り刺しゅう」を始めた背景とは?そこには、手しごとを通じて紡がれる温かな絆の物語がありました。

母が手づくりしたものに囲まれて過ごす。母がしてくれたことを今度は私が・・・

手しごとが好きになった理由について教えてください。

手しごとが好きになったのは、母親の影響が大きいと思います。私が生まれ育ったのは、新潟県の田舎町。実家は、材木問屋で父は建築士、祖父母は小さな機織り工場を営んでいました。そんなモノづくりが日常にあった環境で、手づくりが大好きで器用な母が作ってくれたものたちに囲まれて育ちました。幼稚園で使う上履きに絵を描いてくれたり、2歳年上の姉とお揃いの洋服などを作ってくれたり・・・・・。「私だけのもの」というのが子供心にちょっぴり誇らしかったですし、「こんな風にして」という希望が取り入れてもらえることも嬉しくて、かなり大きくなるまで母の手づくりの洋服を愛用していました。

母の影響で、私も、小学生の時からフェルト人形を作りはじめ、中学生になるとミシンで簡単な洋服を作れるようになりました。頭の中に描いたのものができあがることが楽しくて夢中になり、高校は服飾が学べる学校に進みました。でも、当時は手しごとを「仕事」にするつもりはなく、卒業後は父に影響され建築関係の学校に進学するため、愛用のミシンを持って上京。就職しミシンとは少し離れた生活になりましたが、時折訪れる手芸屋さんで過ごす時間は、母と一緒に行った思い出がよみがえり、癒しのひと時でした。
再びミシンに触れる時間が増えたのは、結婚し、娘を授かってから。母娘お揃いの洋服づくりを楽しむようになりました。母が私にしてくれたことを、今度は私が娘に・・・・・ごく自然にそう考えていたのだと思います。


娘の入園時に刺した「お名前刺しゅう」がきっかけで、刺しゅうの魅力を知る

手しごとの中でも刺しゅうに魅了されたのは、どんなきっかけがあったのですか?

刺しゅうの魅力に目覚めたのは、娘に作った「お名前刺しゅう」がきっかけです。娘が幼稚園に入園する時、離れて過ごす娘のため、元気で笑顔で過ごしてほしいと「お守り」のつもりで水筒ケースに名前を刺しゅうしました。そのケースを持って娘は元気に初登園したのですが、送りだした私の方は、不安と寂しさでいっぱいになり、自分でも想像していなかったくらい、涙があふれて止まらなくて・・・・・・。刺しゅう入りの水筒ケースをぶら下げて元気に帰ってきてくれてくれた時は、どれだけ嬉しかったことか!娘への思いを込めた刺しゅうは、私自身の「お守り」になっていたことに気づきました。

この「お名前刺しゅう」がきっかけで刺しゅうの魅力にはまり本格的に学びたくなり、ヴォーグ学園に通うことにしました。子育てと両立させるため、ゆっくり学べるコースを選択し、月に1,2度度通学することに。娘は最初こそ寂しそうでしたが、次第に慣れてくれて、意外にやればできるものだな(笑)と。夫も、「外の世界を体験することはいい気分転換になる」と応援してくれました。


家族どうしの思いをつなぐ刺しゅうブランドを立ち上げる

刺しゅうブランド「hitototori」を始められたきっかけをお聞かせください。

きっかけは、我が家にやってきたセキセイインコなんです。刺しゅうを学ぶため学校に通い始めた頃、我が家に空色のセキセイインコが仲間入りをしました。その時、娘が創作した物語のタイトルが、「ひとととり」。そう、「人」と「鳥」、インコと暮らす家族の物語でした。温かい気持ちで胸がいっぱいになると共に、お母さんが子どもを、家族が互いを大切にする気持ちを刺しゅうによって表現したいと思いました。「お守り」になるような、私が初登園する娘に手渡した「お名前刺しゅう入り水筒ケース」のような雑貨をお届けしたいと思ったのです。さらに、大切な人の笑顔を願い手づくりすることの豊かさを私に教えてくれた母の姿も思い起こされ、私なりに、そうした豊かさを伝え継承していきたいとも思いました。

娘の創作童話から名前をもらい、家族、大切な人への想いをつなぎあう刺しゅうブランド「hitototori(ひとととり)」をスタートさせたのは、2015年。作品をイベントに出展し販売したり、2019年にはワークショップや小さな刺しゅう教室を開催したりといった活動も開始しました。

ちなみに、私を刺しゅうの世界に誘ってくれた「お名前刺しゅう入りの水筒ケース」は、今も大切に取っています。毎日使ってくれてボロボロなんですが、小学校4年生になった娘が「これは、絶対捨てないで」と。想いが伝わっているのかな、と嬉しいですね。

▼刺しゅうの魅力を教えてくれた「お名前刺しゅういり水筒ケース」


「宝物」の子どもの絵を刺しゅうでチャームに

ブランドを立ち上げて約5年、その間に転機はありましたか?

転機が訪れたのは、2020年に入ってからです。新型コロナ感染症拡大=コロナ禍により学校が休校となり、ちょっとした反抗期に突入した娘と毎日家で顔を突き合わせるようになって、正直、イライラすることも増えました。「hitototori」では主にアクサセリーを作って販売していましたが、意欲がわかない時もあり、気分を一新させるつもりで、家の片づけをしようと思いたちました。すると、娘が小さい頃に書いた絵がたくさん出てきたのです。その絵をもとに刺しゅうしてみると、線を一本引くにも、丸をひとつ書くにも、本当に一生懸命だったのだな、というのが伝わってきて・・・・・・「こんなに一生懸命描いていたんだ」とか、「大きくなったな」とか、言葉には尽くせない様々な気持ちで心の中がいっぱいになり、イライラも洗い流されていく気がしました。

その時、ふと思ったのは、私のようにお子様が描いた絵を捨てらずにずっと大切に取っているお母さん方がいっぱいいらっしゃるだろうな、ということ。そんな絵を刺しゅうで表現し、身近で使えるものにすれば、きっとお母さんとお子様の想いを改めてつなぐきっかけになるのではないか――そう考え、お子様の絵を刺しゅうで再現し、チャームに仕上げてお届けすることにしました。

開始して3カ月程度なのですが、高校生になった息子さんが小さい頃に書いた絵を再現してほしいとか、お孫さんの絵を残したいといったお客様からお声をかけていただいています。あるお母さまは、小さな子がよく描く顔から手が出ている絵を「これ、ママだよ」と言って贈ってもらったエピソードなどを話してくださり、とても温かい気持ちになりました。

 子どもの絵は、線はどこに向かっているかわからないし丸も途中で途切れていたり塗り残しもいっぱいあって、美しく完成した「図案」とはまったく違います。その、いい意味での「ハチャメチャさ」を再現するため、私なりに試行錯誤を楽しんでいます。

スキマ時間に場所を選ばずできる刺しゅう。新たな楽しさがきっと見つかる

今後の夢を教えていただくと共に、読者へのメッセージもお願いします。

現在は、主に、お子様の絵をメールで送っていただいて、私が刺しゅうで再現させていただいているのですが、「自分で刺しゅうにしてみたい」という方には、ぜひお手伝いしたいです。コロナ禍で対面の教室が難しい状況なので、オンラインでのご指導も模索中です。一緒に刺しゅうしながら、子育ての悩みとか、互いにコミュニケーションできるような場が作れればいいなと思っています。

一人の作り手としては、まだまだ勉強の真っ最中。学校も月に1回程度、継続して通っています。学校に行って改めて実感したのは、刺しゅうの奥深さ。ステッチの種類も本当にたくさんあるし、世界各国で独自の刺しゅう文化が育まれ継承されていることを知り、感銘を受けました。現在は、「ウクライナ刺しゅう」に興味を持っています。こうした様々な技法、様々な色を使って大きな作品を作りたいですね。子どもの絵をコラージュすると、ステキな作品になるのではないかと夢見ています。

刺しゅうの魅力は、家事の合間にリビングの片隅で少し刺し進めるという具合に、スキマ時間に場所を選ばずにできることだと思います。ぜひ、多くの人にその楽しさを知ってもらい、長く続けていただきたいです。学校に通う前の私自身がそうだったように、上手くいかなくて「やめちゃおうかな」と思うこともあると思いますが、基本がわかっていれば、刺しゅうの新たな魅力に気づかされることも多いと思います。例えば、学校に通って「表」だけではなく「裏」をキレイに仕上げる基本を学んだことで、仕上がりも格段に美しくなるし、作品に仕上げる前に裏を見られるのは、作り手にしか味わえない楽しみだなと感じるようになりました(笑)。皆さんも続けていれば、きっと今まで味わったことのない楽しさに出会えるはず。私も微力ながら、基本をお伝えするなどして、そのお手伝いができればと思っています。

とても柔らかく優しい印象の伊藤さんですが、しっかりと勉強を続ける姿勢は頼もしく、これからどんな展開を見せてくれるのかとても楽しみです。子育ての中から生まれたお守り刺しゅうも、目の前のことをポジティブにとらえる素敵なアイデアだと思いました。楽しいお話ありがとうございました。

※2020年12月時点の内容になります。

hitototoriさんの作品一覧はコチラです。

プロフィール
伊藤 麻梨子さん
1979年、新潟県長岡市生まれ
高校服飾科卒業
建築専門学校卒業
財団法人日本手芸普及協会 刺しゅうコース講師科修了
2011年キッズとママのお揃い服と雑貨を販売
2015年刺しゅうアクセサリーブランド
「hitototori」立ちあげ
2019年刺しゅう教室 「hitototori」スタート
(プロフィールは記事掲載時のもの)
てといとのプロフィールページはコチラ
hitototori インスタグラム
hitototori
詳細URL
hitototori HP
画像・テキスト資料出典
画像は全てhitototori

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