1. HOME
  2. 手とひと
  3. NEW パワフルな行動力で新しい試みを次々とカタチに!たくさんの人と一緒に、刺しゅう業界を盛り立てたい

NEW パワフルな行動力で新しい試みを次々とカタチに!たくさんの人と一緒に、刺しゅう業界を盛り立てたい

針を刺す、その手元の美しさに思わず見とれてしまう――動画ではじまる福田彩(ふくだあや)さんのホームページ。刺しゅうへの愛おしさが伝わります。刺しゅう作品だけでなく、そのホームページも福田さんご自身で作った、というから驚きです。アルファベットやアンティーク調の文様を彩る刺しゅう作品の製作/レッスンをはじめ、タブレット端末を用いたペイントレッスンやWEBライター、Webデザイン、さらにはミニチュア製作まで。刺しゅう作家を超えた幅広い活躍で、福田さんの興味関心の広さはパワフルで特別です。お話を伺いました。

常に新しいものを取り入れて、昔から続く手仕事の楽しさを広げていきたい

――刺しゅうだけでなく、タブレット端末を用いたペイントレッスンもされているんですね

小さい時からデジタル機器をいじるのが大好きでした。昔ワープロってありましたけど全てのボタンを押してみてコマンドを覚えたり便利な技を見つけたり、デジタル機器を扱うのを楽しんでいました。刺しゅうの図案をタブレット端末で起こしていたんですが、さらに手軽で使い易いソフトを見つけ、「このアプリでレッスンしよう!」とひらめきました。SNSでも「教えて欲しい」という人が出てきたので、タブレット端末を使ったペイントレッスンをはじめたんです。

7~8年くらい前にも刺しゅうの図案を売りだしたとき、紙版に加えてダウンロード版も出したけど全く売れませんでした。それでもしつこく広めたいと売り続けたんですよ。今ではすっかりダウンロード版が主流になりましたよね。

――昔から続く手仕事という世界に、デジタルが加わったらワクワクしますね。とはいえ新しいことに踏み出すのって勇気がいります。

そうですね、タブレット端末のペイントレッスンを始めたときも、図案のダウンロード版を出したときも、周囲から「また変なこと始めて」「そんなもの売れるの?」って言われました(笑)。でも、私は思い浮かんだらすぐに実行したいタイプ。例えば、私のオンラインでの刺しゅうレッスンはサブスクリプションでレッスン料をいただいているのですが、当時は他の分野では始まっていたものの『刺しゅうレッスン』では皆無。他分野の仕組みを研究して『刺しゅうレッスン』でもサブスクリプションを導入しました。刺しゅうのデザインに関しても新しいアイデアを思いついたら、刺している途中でもSNSなどですぐにアピールしちゃいます。他の人が先に同じことを始めていたら悔しいじゃないですか!ちょっと負けず嫌いなところがあります(笑)。

刺しゅう関連のほかに、手仕事をお仕事にしたい方のためのビジネス相談や講演会、WEBマガジンの制作もしています。もともと人に教えたり、何かを伝えたりすることが好きなんですね。大勢の前で話をするのも全然緊張しないので、今の仕事に向いていると思っています。


刺しゅうコンテストをメインにした展示会を企画しています

今は、刺しゅう作家のパントン久美子さんと共同で、コンテストをメインにした「刺しゅうアートフェスティバル2025」という展示会の準備をしています。

――「刺しゅうコンテスト」をメインにした展示会ですか?

はい。「生徒さんたちを巻き込んで展示会をしたいけれど、生徒さんから作品が集まるか心配」と私が久美子さんに話をしたのがきっかけです。彼女も同じことを考えていて、「じゃ、広く作品を集めてコンテスト形式にしない?」って一緒にやることになったんです。会場探しや営業、ホームページ制作などふたりでサクサク準備を進めました。

そうしたら驚くことに、あっという間にコンテストに約180もの応募作品が集まったんですよ!はじめは30作品、多く見積もっても100作品かな?って久美子さんと話していたのですがこの応募数はすごい、すぐに応募を締め切りました。作品を応募した方にとっては、一般の方だけでなく、プロの作家さんや出版社さんなど大勢の方に作品を見てもらえる機会になるので、それを体験してほしいし、入賞をすれば自分のプロフィールにも堂々と書ける。作品を作る励みや自信にもつなげてほしいです。

ふたりとも「刺しゅうの素晴らしさを広く伝えていきたい」という想いが根底にあるので、関係者だけでなく、作品を応募した方も、興味がある方も!みんなでこの企画を宣伝して、刺しゅうの世界を盛り上げていけたらと考えています。


アンティーク調のアルファベット刺しゅうが高評価!突き詰めていこうと思いました

――刺しゅうをはじめたきっかけは?

今から15、16年前、2人目の子どもの妊娠中に、地元の図書館で海外の刺しゅう本を見つけたのがきっかけです。美しい風景写真の横に刺しゅうの刺し方が載っていて、英語が読み解けなくても刺し方が解る本に衝撃を受けたんです。そこからアジュール刺しゅうやドロンワークといった白糸刺しゅうの本を数ヶ月にわたって読みあさり、見様見真似で始めました。

はじめはどんな道具を揃えればいいのかわからなくて、刺しゅう針の存在も知らなかった。それでも、子どもたちを速攻で寝かしつけてから、毎日のように夢中になって刺しました。それはバタバタと慌ただしい日々を癒し、自分を取り戻すために必要な自分だけの時間になりました。
そのうち声をかけてくれる方がいて初めて販売イベントに出店。そのときは白糸刺しゅうの作品のほかに、刺し始めて間もないアンティーク調のアルファベットの作品を出品しました。ところが自信のあった白糸刺しゅうは全く売れず!それに対して始めたばかりのアルファベットの刺しゅうは、「自分のイニシャルが入っていれば買うのに」という方が多く高評価!ならば今後はアルファベットの刺しゅうを突き詰めてみようと思ったんです。

子どもが3人もいるから外へ出て仕事やパートをするのは無理、何としてでも手仕事を仕事として成り立たせたいと「作品を売ること」を意識して、SNSに作品をアップして反響を見たり、イベントで他のショップを研究したり、作品販売を続けました。しかしいくら続けても売れたら材料を買える程度の収入、さらに在庫を抱えるのもリスクが高い。そこで「フルオーダー型」に販売方法を変更しました。

「何のイニシャルにするか」といったところからお客様とやり取りしてデザインを詰め、カバー類やランチョンマット、お店の看板のようなものを製作。今から考えれば破格の値段設定だったと思いますが、在庫を抱えるリスクもなく、着実に収入につながるし、お客様がSNSにアップして宣伝もしてくれる。次第に依頼が来るようになって、月2~3件のオーダーを受けつつ、イベント販売にも少し出店するといったペースで3年ほど続けました。

その後「教えて欲しい」という依頼も増えてきたので、フルオーダーを終了しレッスンを始めることにしました。イベント出店の売上もたってきて、SNSで他の作家さんとのつながりも強くなり、自分の作品作りに集中したいという気持ちもありました。「フルオーダーは辞めます」と伝えた途端にドドッとオーダーが入って……すごく忙しくさせて頂けたのは嬉しかったですね。

私は、刺しゅうに限らずインテリアも含めてアンティーク調のものが好きです。自分でアンティーク調のデザインを描くのがなにより楽しいし、デザインにこだわりを持っています。シンプルなデザインなので私の刺しゅうを好きな人の範囲は狭いかもしれないけれど、自分の表現したい世界観の軸がブレることのないように今後も作品を作っていきたいと思います。

これからは横のつながりが大切になる時代に

私が刺しゅうの対面レッスンをさせていただいている東京の氷川台のミニチュアギャラリー「Noe cafe」では、ほかの先生がミニチュア製作のレッスンをしています。見ていたら私もやりたくなって、3Dプリンターを購入し設計データを作るところからはじめて、今はアンティーク調のミニチュアを作っています。ミニチュア製作の世界って先生同士の横のつながりがとても強くて、新しい技術も「こういう方法があるよ」って教え合ったりしているんですよ。そうした姿を目の当たりにして思ったのは、「これからは互いにシェアすることが必要だ」ということ。自分一人で作品を作っているだけでは限界があるし世界も拡がらない。刺しゅうの素晴らしさをもっと多くの人に、そして末永く伝えていくためには、私たちも横のつながりを増やしていくことが必要だと。今回開催する「刺しゅうアートフェスティバル2025」では、そうした動きがより高まっていけばいいなと思っています。

さらに今後は、プロとして手仕事と関わる人を増やしていくことにも注力していきたいですね。私には無理とか、趣味で充分とか思っている方もいると思いますが、基本の考え方から作品の世界観の作り方、アピール方法やSNSの活用法などノウハウはいっぱいあるし、ビジネスの視点を持つことで世界も拡がっていくので、少しでも興味がある方にはビジネス相談などを通じてサポートしていきたいと思っています。



「刺しゅう」を続けながら、自分らしいビジネスのカタチを構築していきたい

私の生徒さんたちも様々なお稽古に通っていて色々なことを楽しんでいるし、てといとを見ていても手仕事にはあらゆる種類があることが分かりますよね。色々やってみることって大切です。その中で「自分が好きなこと」を見つけたら、細く長くで構わないので続けて欲しいと思っています。私のレッスンにも60代70代の方がたくさんいらっしゃいますが、続ければ続けるほどイキイキと楽しい&大好きな時間が続いていくということですから。

私が今、刺しゅうを中心にデザインやレッスン、情報発信や企画などさまざまなところで仕事ができるのも、刺しゅうを「続けてきた」からこそ。でも5年10年経って興味関心が拡がって、もしかするとビジネスの主軸が「刺しゅう」ではなくなって、違うことをしている可能性もある。刺しゅうが大好きだからこそ、刺しゅうに固執せず柔軟に構えているくらいの方がいいと思うんです。

今後も「刺しゅう」を通じてつながったご縁や機会を活かしながら自分らしく、自分のビジネスをデザインしていきたいです。仕事になって追われる部分もあるけれど、私にとって「刺しゅう」は今も、自分自身を癒す、自分の世界観を伝える、自分を保つのに不可欠なもので、この先どんな関わり方になったとしても続けると思います。

※2024年12月時点の内容になります。

◆「刺しゅうアートフェスティバル2025」◆
日時:2025年7月17日(木)〜7月21日(月) 11:00〜17:00
場所:ヒルトピアアートスクエア(ヒルトン東京地下1階)西新宿駅直結
全国各地からお申し込みいただいた刺しゅう作品約180点を展示のほか、ゲスト審査員の特別展示も同時開催。刺繍のジャンルや教室の垣根を超えた刺しゅうの祭典。刺しゅう好き、クラフト好きのお友達をお誘い合わせの上、ぜひお越しください。
詳細は、「刺しゅうアートフェスティバル2025」特設サイトをご覧ください。
◆福田彩さんのクリエイターページはコチラ
プロフィール
福田彩(ふくだあや)さん
刺しゅう作家、株式会社ブーケ代表取締役、刺しゅう作品の製作、刺しゅうレッスン/タブレット端末を用いたお絵描きレッスン、3Dプリンターによるアンティーク調のミニチュア製作、Web雑誌『and Bouquet』の制作/配信、展示会企画、ビジネス相談、講演会など幅広く活躍。

1982年東京生まれ。小さいころからデジタル機器に強く興味を惹かれ慣れ親しむ。小学生の時に刺しゅう糸でミサンガ作りをマスターし手仕事の楽しさを知る。小物を時々作る程度で手仕事からは長く離れていたが、子育て中に海外の刺しゅう本からアジュール刺しゅうやドロンワークを知り刺しゅうを刺し始め、展示販売やオーダー販売を経てアンティーク刺しゅうのレッスンをスタート。さらにデジタルスキルを活かしてタブレット端末でのペイントレッスンを展開。2024年1月株式会社ブーケを設立。展示会や販売イベントの企画をしたり、新しい刺しゅうレッスンを生み出したりと活動の幅をさらに広げている。

著作物:『アルファベットの刺繍図案帖』(日本ヴォーグ社)2021年、『Antique style Painting time ~iPadとprocreateで描くアンティーク風イラストの基本1~ AP』(Kindle版)2023年

(プロフィールは記事掲載時のもの)
ホームページ
https://bouquet-24.com/
and Bouquet (アンドブーケ)
https://saipon.jp/h/andbouquet
「刺しゅうアートフェスティバル2025」特設サイト
https://embroidery-art-fes.com/
instagram
https://www.instagram.com/matrice.aya
詳細URL
画像・テキスト資料出典

関連記事