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限りある時間の全てで糸を紡ぎ、作品を作り続けたい

てといとで、羊毛からスピンドルを使い手紡ぎ糸が完成するまでを見せてくれた、なちゅらるはるさん。まっすぐな瞳で、糸への想い、作品への情熱を語ってくれました。「作家というより職人と言われたい」という彼女の歩みを伺いました。

まずは「糸」との出会いを教えてください。

実は、世田谷線の駅前でレゲエバーのお店をやっていたんです。地元の人が仕事帰りに寄ってくれるようなお店でレゲエ喫茶と呼ばれていました。
もともと編み物は好きだったので、そのお店が始まるまでの時間にマクラメを編んでいたのです。ラスタカラーで赤や黄色を使って、アフリカン系のイメージにしていました。当時はまだレゲエ自体が珍しかったこともあって、オークションで売ってみたら結構好評で、さらにオーダーもいただいたりとすっかり本業が逆転していました(笑)。

その後、出産や体調を崩したこともあり家庭に入り、子育てしていたんですが、自分で出来る事はなんだろうという気持ちは常にありました。そんな中、麻ひものバッグの作り方を本屋さんで見つけて、早速100均で麻ひもを買って作ってみたんです。いびつなカタチにはなりましたが、なんとか完成して親友にプレゼントしたら、なんとその親友のママ友が欲しいということでオーダーしてくれたんです。
この出来事が「ハンドメイドでお金をいただく」ということの初めての体験でした。「ああ、これだったら誰にも迷惑かけずに楽しみながらできるんだ」って、その時思ったんです。



予想外のスタートの中、今でも素材として使っている麻ひもとは最初から出会っていたのですね。

はい。それからしばらくは知り合いを中心に販売していたのですが、2016年にたまたま世田谷のハンドメイドイベントの募集を見つけて、興味をもちました。一人では不安だったので友達と一緒に出店して、そこで初めて、「見知らぬ方が、自分の作品を手に取って、喜んで買ってくれる」という体験をしたんですね。そのことが嬉しくて、それから本格的にイベント出店をするようになったんです。

その後、柴崎のWarehouseGardenという、イベントスペースがあるカフェの「ちっちゃな手づくりマルシェ」でソロの出店デビューを果たし、その後もイベントの経験を積んでいきました。作品としては、バッグ類を中心に、髪留めのアクセサリーとか、シュシュなど小物も。材料は麻ひもだけではなく、ウールや引き揃えの糸でも作っていて、その頃、引き揃えの糸の面白さに惹かれていきました。


ここで糸の存在に目覚めたのですね。

最初は、かわいい糸が欲しいなあとか、変わった糸を使ってみたいなと思って引き揃えの糸をいろいろ購入して編んでみたのです。それから今度はいろんな糸を購入して、自分で引き揃えの糸を作ってみました。作ってみると、今度はそれが認めてもらえるのかどうか試してみたくなって販売したくなっちゃうんですね(笑)。

オリジナリティを大切にしながら、麻ひもといろんな素材の糸を合わせて作っていました。本当にいろんな糸を合わせるので、「チャンプルー糸」と命名したのです。結構個性的な糸で根強いファンもいてくれて、今でもオーダーをいただいているんですよ。

チャンプルー糸で自分の作品作りのバリエーションは広がったのですけど、それでもまだまだ納得がいかず、今度は染色を専門にしているお店の糸を購入して試してみました。ただ、染色家さんの糸は高価で、それを使うと価格に反映してしまうのです。悩んだあげく、「それなら自分で染めてみよう」とやってみることにしました。



糸づくりの世界に足を踏み出しました。

「染めてみよう」と言っても知識も経験もないので、まずは染め方を調べるところからです。「鍋があればだれでも染められます」と書いてあったので、ホウロウの鍋を購入して、キッチンでぐつぐつやって、乾かしてみました。糸の素材によって吸収が異なり、最初に加減した液の色と糸の色では発色が変わり、さらに染めた後に洗い上げていくと色が落ちて変化する…。これはとても面白いと思いました。ウールの場合は、羊さんの油加減によってまた色が異なるなど、素材と染料の相性を毎日研究しました。お酢を入れたり塩を入れたり、メーカーによっても色味が違うので、あくなき追及の日々です(笑)。試しに麻ひもを染色してみたらとても馴染みやすく感触が良かったので、他にもいろんな素材で試して自分で引き揃えを作ってみたりと、探求心は止まりませんでした。

そうなると…これは世の中の評価としてはどうなのだろう?と思ってしまうので、自分で編んでみて色落ちなどをチェックした後に、さっそく玉巻きにして販売してみました。
自分ではイタリア系と呼んでいる強めの色に染めているのですが、それが組み合わせによっては渋い感じにもなるらしく、織物用の糸としても好評をいただいています。

そして、次に出会ったのがアートヤーンという糸でした。


アートヤーンとは、どんな糸ですか?

羊毛を手紡ぎしながら他の糸を合わせていく糸のことです。とても個性的で素敵なアートヤーンと出会い、もうその作家さんが作るアートヤーンが使いたくて夢中になりました。その糸を使って初めて、「手紡ぎ」って面白いなあと思ったのです。

使い続けるうちに自分でも作ってみたくなり、材料を揃えに吉祥寺の羊毛専門店へ。紡ぎ車も薦められたのですが高価なのでスピンドルという方法を選んで、使い方を教わったらあとはひたすら紡いでみます。最初は糸がブチブチ切れてしまうのですが、上手になりたくて暇さえあれば紡いでいましたね。
アートヤーンを知るきっかけになった作家さんともお会いする機会があり、紡いだ糸を見てもらってアドバイスもいただきました。本当にありがたいですよね。ずっと仲良くさせていただいていて、今では、私が染色した羊毛を使ってもらうこともあるんです。

糸紡ぎの一番面白いところは、綿状の羊毛が1本の糸になることですね。原始的なことですけど、自分で糸を生み出しているというところに面白さを感じます。もっといろんな素材を紡いでみたいと思います。おかいこさんも、羊さんも、アルパカさんも…

▼2ヵ月に1度開催している「小さな町のハンドメイドショップ」


あくなき追及はまだまだ続きそうですね!最後に、これからどうなっていきたいですか?

本来は自分で編むために糸を追求しています。自分で染めて紡いだ糸で作品を編み上げて、それを使って喜んでもらって初めて「達成感」があるのかなと思っているんですね。そのために、限りある時間はずっと紡いだり編んだりしていたいと思っているんですけど…編む前に反応が見たくて糸を販売してしまうんです(笑)。

大きな夢で言うと、自分がこの世を去った後にお宝鑑定で「いい仕事していますね」と言われるような作品を残したいです(笑)。もう少し現実的なところで言うと、「毎シーズン1点は欲しいな」と思われる作品を作っていきたいです。
あとは…羊のオーナーになろうと思っていて。牧場から羊毛を仕入れたことがあって、そこでかわいい羊が生まれたらお願いしますって、もう頼んでしまいました(笑)。

ひたむきにまっすぐに…目指すものに向かって進む、なちゅらるはるさん。「スピンドルを使う時は録画した時代劇を流しているんです」と明るく笑いながら話してくれました。これからもどんな糸と作品を生み出してくれるのか楽しみです。ありがとうございました。

※2020年02月時点の内容になります。

◆なちゅらるはるさんの作品一覧はコチラ
プロフィール
喜納 美希さん
バーの運営から、専業主婦を経てハンドメイドの世界へ。染色、手紡ぎ糸、引き揃え糸など糸・手編み作品の制作販売に取り組むと共に、2ヵ月に1回の「小さな町のハンドメイドショップ」ほかイベントを主催。他のハンドメイド作家さんとの交流にも積極的に取り組んでいます。(プロフィールは記事掲載時のもの)
てといとのプロフィールページはコチラ
詳細URL
なちゅらるはるさんのインスタグラム
画像・テキスト資料出典
羊毛以外の画像は全て(C) エムデザインオフィス

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