1. HOME
  2. 手とひと
  3. 手作りの魅力と、対価を超えた価値のある品質をあわせもつニットをスタッフと共に

手作りの魅力と、対価を超えた価値のある品質をあわせもつニットをスタッフと共に

オリジナルの編地やテキスタイルにこだわり、量産品にはない個性と品質が支持されているニットブランド「Kei MACDONALD」。代表であるマクドナルド啓さんはニッターさん(ニット職人さん)と力を合わせ互いに高めあいながら製作に勤しんでいます。彼女が歩んできた道のり、未来への思いとは?そのお話には、手しごとを愛する人たちの目の前に広がる新たな可能性が秘められていました。

量産の流れも経験した末、納得いく商品を生み出す現在の形態に

ブランドを立ち上げられたきっかけ、ニット製作に特化された理由は、どんなことですか?

もともと、アパレル企業でパタンナーを経てデザイナーとして働いていました。世界的なブランドを発信している企業で、私もロンドンやパリに赴き海外とのご縁もできるなど充実した日々を過ごしていたのですが、出産をきっかけに退職、フリーランスに。当時、商社が企画し中国の工場などで生産したサンプルをアパレル企業に提案して受注をするといったOEMが主流になりつつあったので、伝手を頼って商社さんと契約を結び、商品企画などに携わるようになりました。

実は、私は、元々ニットではなく布帛(ふはく:布製品)のデザイナー。編み物も好きで学生時代に講師の資格を取っていたので、当初は布帛とニットと両方でやっていましたが、次第にニットに特化するようになりました。その理由は、主に3つ。一つめは、布帛と比較してニットは「パートナー企業に企画制作を任せる」という商流が早い段階からできあがっていたので外部のフリーランスデザイナーとして需要があったこと。アパレルメーカーにとって、オールシーズンで見るとニットはどうしても比率が少なくなるため、自社内でデザイナーを抱えるよりアウトソーシングする方が効率的なのです。二つめの理由は、私が手掛けた商品の中でニットを高く評価してくださる方が想像以上に多かったこと。そして、3つめは、私自身、ニット製作の布帛にはない「自在さ」に魅了されたことですね。材料の面から言うと、布はオリジナリティを出すには大きなロットが必要になるけれど、毛糸は残ったとしても、違う商品の一部に使ったり、他の糸と混ぜて新たな個性を出すことができます。何より、編地を作ることができ素材の風合いそのものを自在に創りだせるのが布帛にはない魅力であり、今もそれに魅了されています。


ニッターさんたちと協力しながらモノづくりをするという現在のやり方にたどりつくまでの経緯を教えてください。

フリーランスとして船出した当時から今までを振り返ってみると、セレクトショップの先駆けであった企業様から継続的な契約を頂き、中国の工場に製作を発注してかなりのボリュームの商品を作らせていただていた時代もありました。でも、当時、あるイギリスの取引先から「イギリスも日本も、自国内に優れた職人たちや素材メーカーが存在しているにも関わらず、海外生産が拡大したことにより、そうした人や企業が危機に陥っている。私たちもそうだが、あなたも、日本のかけがえのない“資産”を使って納得のいく商品を生み出すことに真剣に向き合ってみてはどうか」というアドバイスをされたのです。そのお言葉を聞いて、ハッとしたのです。

私自身、仕事をする中で海外の生産現場と思いを共有することの難しさに気づきはじめていました。例えば色のニュアンスを伝える際、食べ物や身の回りのものにたとえても、生活基盤が違うからうまく伝わらない、技術面での細かいこだわりを理解してもらうのが難しい・・・・そんなもどかしさを経験していたのです。折しも、中国の人件費が急速に上がり海外生産のメリットが小さくなったこともあり、これからは日本での生産に方針を転換しようと、ニッターさんを募集したのが、約15年前です。

それからも試行錯誤が続いたのですが、次第に、「一点もの」のこだわりがある作品を手編みと家庭用の編み機を使って丁寧に作っていこうと考えるようになりました。それなりの品質の量産品が低価格で買える時代だからこそ、それらにはない個性やこだわりを渇望しているお客様は必ずいるはず。そんな人たちに向けて納得のいく商品を届けたい・・・・・・そんな思いでニッターさんと力をあわせて製作し、ポップアップストア(期間限定ショップ)などで販売するようになり今に至っています。

ご協力いただいているニッターさんは現在6名。初めてニッターさんを募集した当初に応募してくださった方もいらっしゃいます。また、最近では、講師として活躍されていた方やニットの書籍を刊行している作家さんも参画してくださっています。ニッターは、商品に自分の名前が冠されることはありません。「どんな形でも編み物を日々やりたい」という方々が集まってくださっているということであり、編みものには一度夢中になると抜けられない魔力(笑)みたいなものがあるんだなと改めて感じます。

お客様の視線を意識し、ディテールが複雑なジャケットのような衣料も完璧に

「Kei MACDONALD」のこだわりは、どんなことですか?

「一点一点手作りすることの魅力を活かしつつ、けっして安くはない対価をお支払いいただくに足る商品を作ること」を常に意識しています。テキスタイルとデザインは、私が考え、家庭用編み機と手編みで作ります。一方、糸は、手芸屋さんで売っているようなものではなく、工業糸と言われる産業用のものを使用しています。こうした糸は、太さの表記も「番手」ですし、接ぐ前にいったん水洗いするなど扱いも違います。参画したばかりのニッターさんは戸惑われることも多いですね。ニッターさんそれぞれの個性などに寄り添いながら、じっくりコミュニケーションをとることを心がけています。

「Kei MACDONALD」の特徴は、ジャケットのように、フォルムが重要でディテールも凝っているものもニットで完璧に作りあげることだと思います。これは、元々、私が布帛のパタンナー、デザイナーを経験したことにも関係していると思います。同時に、こうしたものを作りあげるには、ニッターさんの技術や姿勢が最大の鍵であることは言うまでもありません。例えば、家庭用編み機を使って製作されているジャケットやカーディガンは、ポケットの中に継ぎ目がない、ボタンホールを編みながら作る、胸ダーツや肩ダーツが入っているなど、超絶技巧のかたまり!こうした見えないところまで徹底的にこだわることで、着た時の着心地、フォルムが着実に変わってくるのです。


啓さんのこだわりをニッターさんと共有していただくために工夫されていることは?

ポップアップストアでの販売などでお客様と接していると、お客様は、私たちのこだわりをきちんと見抜く目を持っていらっしゃると感じます。だから、ニッターさんには、私のOKを得ることがゴールではなくて、「お客様の要望に応える」ということが最終的なゴールだと自覚してほしいと伝えています。私たちの商品を購入してくださるお客様は、例えば、お給料をやりくりするなかで月に一枚だけ買うお洋服を慎重に選んだ末にご決断されたかもしれないし、かけがえのない人への贈り物にされるのかもしれません。自分や家族、親しい人が着るものだったら、少しくらいいい加減でもいいかもしれないけれど、私たちの場合は、こうした様々な事情を抱えた不特定多数のお客様が対価を支払うに足るクオリティーであるかどうかが問われるのです。

とはいえ、こうしたことを言葉だけで伝えるのは難しい。だから、ニッターさんたちには、できる限り、ポップアップストアでの販売のお手伝いをお願いしています。「接客が苦手なら、席を用意するからそこで編んでいて」とお願いすることもありますね。自然に生まれるお客様との交流の中で、自分の作ったものが安くはないお値段で売れることの喜びと共に、対価を支払ってくださるお客様の厳しい視線を体感していただけたらいいなと思っています。


お客様と直接つながる道筋ができた今は、手作りの喜びを一歩前に進めるチャンス!

手仕事を取り巻く環境の変化をどう捉えていらっしゃるのか、その中でどんなことをやってみたいとお考えなのかをお聞かせください。

コロナ禍により、ポップアップストアでの販売には少なからずのマイナスの影響がありましたが、一方で、「自分にピッタリ合うものをオーダーしたい」というお声もいただくようになりました。私たちのブランドは、一点一点手作りですので、けっして安くはありません。でも、元々すべてが手作りなので、オーダーしても急激に価格が上がるわけではないのです。

自分に合うものをいろいろな店舗をめぐって探していらっしゃったのがコロナ禍によってできなくなり、思い切ってオーダーしようと思ってくだる方が出てきているということでしょう。このことは、洋服を売る、買うということを取り巻く環境の変化を示していると思うのです。つまり、インターネットの浸透をはじめ、多様な販売チャネルの登場により、アパレルメーカー、実店舗を通さなくても、お客様と「一対一」で交流し、「他ではみつからないものを」「自分だけのものを」というご要望にきめ細かくお答えする道筋ができたということではないでしょうか。私自身、インターネットの知識は浅いのですが、これから勉強して、SNSを通じた販売などにも挑戦していきたいと思っています。

最後に読者への応援メッセージをお願いします

「てといと」や手作り作品を販売できるサイトなどを拝見するにつれ、手しごとを楽しむ人のレベルがすごく上がっていることを感じます。作り手と買い手が直接つながりあえる今、趣味の範囲を一歩超えて、その技を世の中に発信するプロになるための方法がどんどん広がってきているし、それを求めるお客様も少しずつ増えてきているとも思うのです。もちろん、お客様に対価を支払ってもらうには、それに応えるだけのスキルが求められるし、それを磨き続ける努力も必要です。その努力そのものに夢中になる人が一人でも増えたら嬉しいし、私も、そうした方々に刺激を受け、前に進んでいきたいですね。

キリっとした緊張感のある「Kei MACDONALD」のニットは、手編みとは思えないレベルの高さ。そこに手仕事ならではのきめ細かい配慮も施されているので、スタイルも着心地も満足の大切な1着となりそうです。今回は、ハンドメイドの行きつく先にはこんな世界も広がっているというお話が伺えました。マクドナルド啓さん、ありがとうございました。

※2020年11月時点の内容になります。

プロフィール
マクドナルド 啓さん
有名アパレルブランドのデザイナーとして活躍した後、1998年、「Kei MACDONALD」を立ち上げ、イギリスを中心とした海外で販売開始。日本においても有名セレクトショップで販売するなど支持を広げる。現在は、信頼できる職人たちと共に手作りの温かみと高いクオリティーを兼ね備えるニット作品を製作、数々の展示会に出展するとともに、オンライン及び大手百貨店でのポップアップストアなどでの販売を行っている。(プロフィールは記事掲載時のもの)
詳細URL
http://www.kei-macdonald.com/
詳細URL
フェイスブックはコチラ
画像・テキスト資料出典
画像は全て(C) エムデザインオフィス

関連記事