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眠っていた着物を「サムライアロハ」として蘇らせる! 東北、日本のモノづくりへの思いを込めて…

古い着物を丁寧にほぐし裁断して “世界でただ一着“のアロハシャツに――宮城県仙台市に拠点を置く「サムライアロハ」。その活動や製品はメディアで紹介されたことなどをきっかけに国内はもとより海外からも注目を集めています。代表取締役社長である櫻井鉄矢さんが、こうした活動を始めた理由とは?そこには、東日本大震災で大きな傷を負った故郷、そこに生きる人々への思い、そして、日本で連綿と紡がれてきた伝統の手しごとへの思いがありました。

箪笥に眠っている着物に新たな「物語」を。被災地の女性たちに「仕事」を…

「サムライアロハ」をスタートさせたきっかけについて教えてください。

大学を卒業し、ブランド品を中心とした古物商・質屋を手掛ける企業へ入社しました。ふたつの支店の店長を経て2009年、28歳の年にフランチャイズ事業課の課長になりました。順調な会社員人生に転機をもたらしたのは、東日本大震災です。私の故郷である宮城県岩沼市は甚大な被害を受け、実家は奇跡的に持ちこたえたものの、営んでいたデイサービスの施設は津波に流されました。仙台市を中心とする経済圏が大打撃を受けたことは言うまでもありません。「ここで行動を起こさなければ後悔する」――そう思い、故郷へと戻り、家業の立て直しに取り組むと同時に、勤めていた企業と契約を結び、仙台市でフランチャイズ店を運営することにしました。

そんな私が次の一歩を踏み出すきっかけは、二つありました。

まず、一つは、ブランド品を扱う古物ビジネスに携わる中でずっと抱いてきた不満でした。日本には、世代を超えて受け継がれてきた手しごとや高度な技術によって作られたものがたくさんあります。そんな品の評価が、海外のブランド製品に比較して、なぜ、こんなに低いのだろう…日本人として忸怩たる思いを抱かざるを得なかったのです。そして、その代表格が着物です。仙台で空き家を解体する前に骨董品などを鑑定して買い取る事業を始めたのですが、多くの家でたくさん着物が箪笥の中に眠っている。日本には、なんと2億枚に上る着物の箪笥在庫があるそうです。こうした着物たちをなんとか蘇らせてあげることはできないものか…そんな思いを抱くようになったのです。

もうひとつのきっかけは、地元のおかあさんたちの苦境を知ったことです。被災地では多くの保育園が津波で流され、お子さんを預けることができなくなり、仕事に出られなくなり困ってらっしゃる方が多くいました。そんな方々に家にいて育児をしながら仕事ができる道を拓くことはできないかと模索するようになりました。

この二つの思いが起点となって誕生したのが、「サムライアロハ」です。
アロハは、もともと、ハワイに移住した日本移民が古い着物を気候にあうように半袖に仕立てたのが起源です。そう、アロハには、異国の地で故郷を思いながら懸命に生きた人々の「物語」が込められているのです。古物商の仕事をする中で気付いたことがひとつあります。それは、人々がブランド品に高い対価を支払うのは、モノそのものというより、そこに込められた「物語」に価値を見出しているからではないかということ。眠っている着物たちに「物語」という価値を改めて付加する最善の方法は「アロハだ!」と思ったのです。

さらには、着物をアロハに仕立て直すには、まず、着物をほどかなければなりません。この作業は、「内職」として家でもできる。着物をアロハにリメイクするという事業を始めることで、苦境に陥っているお母さんたちの助けになるのではないか。そう考えて、「サムライアロハ」をスタートすることにしました。



紆余曲折の末に誕生した「サムライアロハ」。メディア紹介をきっかけに海外にまで…

「サムライアロハ」が認めていただけるようになるまでのストーリーを教えてください。

まずスタートの段階から、いきなり壁にぶつかりました。着物生地を仕立てていただける縫製工場がなかなかみつからなかったのです。そもそも、呉服業界では着物にハサミを入れるということ自体がタブー。私たちの活動に眉をひそめる人も少なからずいらっしゃったことも関係していたと思います。ようやく、福島県南相馬市の縫製工場さんのご協力を得て、製品にするところまでこぎつけました。ところが、最初は、なかなか売れなくて(笑)。「宮城県発のアロハ」ってピンときませんよね。諦めようかと思ったこともありましたが、子どものころお世話になった方と再会して思いを伝えたところ出資をしてくださるなど、ご縁に助けられて何とか事業を続けることができました。

そのうち、2019年に『新東北みやげコンテスト』でインバウンド特別賞をいただいたり、NHKの『美の壷』で紹介されるなど、次第にメディア露出が増えてきました。東北出身の有名なタレントさんが直接購入して着てくださったりもして、少しずつ評判が広まり、東京の百貨店でお取り扱いしていただくなど、お取引先も増えていったのです。海外からも注目していただき、世界中のファッション、デザイン、アートを中心に約500ブランドが参加し、25,000人を動員するトレードショー『rooms』にも参加させていただきました。今では、海外からのご注文もかなりあります。

「サムライアロハ」は、どのようにして作られるのですか?

古物事業を通じ古い着物を買い取り、その中から地元のお母さんがそれぞれお好きな着物を選び、丁寧にほぐし、洗濯した後、裁断までお任せしています。和裁の経験がある方もいらっしゃいますが、そうではない方も、もちろんいらっしゃいます。育児しながらでもできるので「助かる」と喜んでいただいているのですが、感謝しているのは私のほう。先ほど申し上げたように着物にハサミを入れるというのは、呉服業界ではタブーです。そこにこだわらず、やってくださる方々の存在あってこその「サムライアロハ」なのです。

デザインや縫製はプロにお願いしています。作り始めた当初は、私自身も少しデザインに関わっていたのですが、「自分の着たいもの、好きなものが」が「お客様が求めていらっしゃるもの」とは違うと気がつきました。そこで、ご縁ができた復興庁から、市場のニーズを感じ取り応えることに長けていらっしゃる東京のデザイナーさんをご紹介いただき、お任せすることにしました。縫製に関しても、やはり、プロにお任せすると、細部などの仕上がりが全く違います。特に、東北地方の縫製工場の技術は非常に高いのです。東北の工場にお願いすることで、少しでも復興のお役に立てればという思いもあります。

こうした多くの方々の手によって作られた一枚一枚のアロハを型崩れしないよう筒に詰め販売しています。プロにお任せし、お客様の求めていらっしゃるものにこだわるのは、製品の価値をきちんと認めていただきたいという思いがあるからです。製作に関わっていらっしゃるお母さんたちにとっても、自分たちの関わった製品にお客様がそれなりの対価を支払ってくだっていることが「誇り」になると思うのです。着物をリメイクして作る「サムライアロハ」は、基本的に一枚の着物から一着しか作れません。一枚一枚の着物が持つ「物語」を引き継いだ「世界に一着しかないアロハ」なのです。その価値を認めていただく道筋を作るのが私の役目だと思っています。



手しごとの粋を集めた「モノ」、それを生みだす「才能」。埋もれていくのは「もったいない」!

今後新たに取り組みたいことはありますか?

アロハ以外にもネクタイや小物なども手掛けていますし、最近では着物のリメイクをより楽しんでいただけるために、パーカーを製作するなど、さまざまなことにチャレンジしています。
呉服業界の浮上にも一役買えたらという思いもありますね。呉服市場は年々縮小する一方です。これまでの常識のみにとらわれず、新たな発想での取り組みが必要だと思うのです。例えば、ゆくゆくは、アロハに再生する事業の代理店となっていただけるようなご賛同者様たちをじっくりと増やしていければと考えています。

日本には、着物のほかにも、焼き物、工芸品など、「職人技」、つまり、手しごとの粋が凝縮した素晴らしいものがたくさんあります。海外にもけっして引けを取るものではありません。だからこそ、それらが埋もれたままになっていたり、不当に低い価格でしか流通しないのは、とても寂しいことだと思えてならないのです。そうした手しごとの技を評価してもらう道筋、場をもっともっと作っていきたいです。骨董品の販売サイトの立ち上げなども企画中です。また、手しごとやアートに情熱を持つ若い世代を応援したいと東北芸術工科大学の学生さんたちの作品を販売するための活動も始めています。東北には、オリジナリティのある美術が長年にわたり育まれていると思うのです。その美術によって生きていける人を増やすために、ささやかながら力を尽くしたいです。

現在の私のテーマは、「サスティナブル」(=持続可能性)。平たく言えば、「もったない」精神(笑)ですね。着物に代表されるように素晴らしい手しごとによって作られたモノたちが埋もれてしまうのも「もったいない」し、そうしたモノや芸術を生み出せる才能が埋もれてしまうのも「もったいない」と思うのです。私なりのやり方で、そうしたモノや才能が世の中に認められるよう知恵を絞りたいと思っています。


最後に、読者、特に手しごとを「仕事」にしたいと考えている人へのメッセージを。

どこをゴールにするか、によって変わってくると思います。仕事にしたいと思うなら、安定した品質を実現することも重要ですし、独りよがりではなく、買ってくださる方が何を求めていらっしゃるのか、という視点を持つことが必要だと思います。他の人に作品を見せたら思いもかけない批判をされることもあるかと思いますが、それをきちんと受け止め、自身のスキル向上の糧にするという姿勢をもつといいのではないでしょうか。

インタビュー中に何度も席を立って、「これなんですよ」と様々な商品を見せてくれた櫻井さん。地元のお母さんたちの話を聞き、会社員時代に疑問に思っていたことにも結び付け、グローバルに拡大している「サムライアロハ」は、そんな櫻井さんのフットワークの軽さで、様々な垣根を越えているのかもしれません。今年の夏は自分だけの1着のアロハを着てみたい、そんな思いになりました。櫻井さん、元気になるお話をありがとうございました。

※2021年2月時点の内容になります。

プロフィール
櫻井鉄矢さん
1981年生まれ、宮城県岩沼市出身。大学卒業、株式会社大黒屋入社。大阪店店長、新宿店店長を経てフランチャイズ課課長に就任。2011年東日本大震災をきっかけに宮城県に戻り、2012年に大黒屋とフランチャイズ契約を結び独立。2015年から、待機児童を抱える主婦へ、子育てをしながら出来る仕事として中古着物を反物にし、アロハシャツに加工するサムライアロハ事業を開始。国内はもとより海外からも注目を集めている。
(プロフィールは記事掲載時のもの)
サムライアロハ インスタグラム
samurai_aloha
詳細URL
サムライアロハHP
画像・テキスト資料出典
画像は全てサムライアロハ

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