檜原村の豊かな自然をとじ込めたアクセサリー。対話が広がり、縁を生み出すきっかけに
お花の種や花びら、茎や萼(がく)…東京の檜原村(ひのはらむら)の自然をレジンでとじ込めて作る「chitoseya」髙木美穂さんのアクセサリー。かわいらしい形を成して並ぶ種や花びらたちが、新たな表情を見せてくれるのが印象的です。
レジンでとじ込めているのは「植物の種」だけではありません、「話の種(話題)」もいっぱい!アクセサリーを介してコミュニケーションが生まれ、人と人がつながっていく、そんな力が髙木さんの作る作品には込められています。
家にたくさんあった大豆。その愛らしいフォルムをレジンでとじ込める
アクセサリー作りをはじめたきっかけを教えてください
主人との出会いから檜原村に嫁ぎました。家業のお豆腐屋さんを手伝いながら、趣味でビーズや陶芸で作ったパーツを使いアクセサリー作りを楽しんでいたのです。転機は、東日本大震災の義援金を設けるために近所のお店に設けられたブースで趣味のアクセサリーを販売したときでした。私が作った物に興味を持ってくださる方がいて、そこに価値が生まれ、お金が生まれ、そのお金が誰かのお役に立てることに感動し、本格的にアクセサリーを作りたいと思いはじめました。
とはいえ檜原村に居ながらにして私に何ができるだろうか、と……その時に出逢ったのが、毎日主人が仕込みで洗う『大豆』でした。ころころと丸く愛らしいフォルムの大豆たち。それをレジンでコーティングしてみたらすごくかわいいものができたのです。
「大豆って種よね」と、他にもかわいい『種』を探したら、私の周りには素材になる素敵なものがいっぱいあることに気づきました。種からはじまり茎や花びらなど季節を通して様々な表情を見せてくれる植物たち、その成長を感じながら楽しむアクセサリー作りが始まりました。
種・花びら・茎・がくなど「分割して素材を見る視点」はどのようにはぐくまれたのでしょうか?
小さな頃から、古いお洋服をお人形にしたりボタンを外して別のものを作ったり、今あるもので何かを作ることが好きでした。庭の椿の蕾を一枚一枚はがして茎や花びらに分解してみたことも。今のものづくりの原点はそこから来ているのかもしれませんね。
長男の小学校入学と同時に本格的にイベント出店などを開始。初出店は「八王子手仕事アートマーケット」でした。実はその時、家業に専念した方がいいのでは?とか、技術が中途半端だとかぐるぐる悩んでいてアクセサリー作りをやめようかと思っていたのです。でもイベントで思った以上の反響があり、お客様とのコミュニケーションも楽しくて、「悩んでいないでもっと頑張ろう!」と。家業と家事と子育て、そこに作品作りが加わりましたが、好きなことをするために早く家事を終わらせようとか、かえって活力になったと思います。
檜原村で育った素材で作る…自宅の敷地をウロウロしながら素材探し
素材はどこでどうやって探しているのですか?
自宅の裏が斜面になっていて様々な植物が生えているのですが、そこで見つけたものを素材にしています。近所で見つけたものをお願いしていただくことも。以前は売っている花を素材にしたこともありますが、成長の過程をみて愛着が湧くせいか土地で育った素材で作りたいと思うようになりました。
自宅の植物を使うもう一つの理由は、野草は水分が少ないため摘むとすぐに枯れてしまうから。自宅の敷地だと摘んですぐに乾燥処理ができるため、しおれることなく仕上がりも色鮮やかで出来上がりが違います。家は乾燥用のシリカゲルが入ったケースだらけ(笑)。摘んですぐに入れるため外と家を何往復もします。
乾燥させた後、レジンで固めるときもまた難関が。レジンは固める際に熱を80度まで上げるのですが、植物の中の空気が熱によって外へ出て膨れることがあるのです。空気を含まない素材を選別したり熱で変色しないタイミングで処理したりと、「試しては失敗」を繰り返して形にしていきました。
デザインは思いつきで作ることもありますが、アイデアが一番浮かぶのはお風呂上がりにドライヤーで髪を乾かしている時。バスルームにはいつもメモとペンを置きアイデアをすぐに描けるようにしています。
大きな転機が再び。縁が広がる
2021年の6月から約5ヶ月間、病気で療養を余儀なくされ、その間体を休めつつもひたすら作品作りにいそしみました。病気も癒えた10月頃からイベント出店にお誘いいただく機会が驚くほど増え、療養中にコツコツと作りためた作品たちを携えて積極的に参加しました。また同じ頃ギャラリーのオーナーさんと出会い、そのギャラリーがあまりにも素敵だったので思わず「ここでぜひやらせてください!」と自ら手を挙げ、展示販売会をすることを決めました。
自身の展示販売会を開催するのは初めての経験。ぜひ一緒にやりたい!とお声がけしたドライフラワー作家さんと2人で開催することに。自分で企画から立案し、会場となるスペースいっぱいに2人の作品を並べて創り上げていく楽しさを満喫!大好きなものたちに囲まれて、私たちだけのマルシェのような世界観を作り上げることができました。準備期間が短かったにも関わらず開催にこぎつけたことは、大きな自信になりました。人が自然と集まってきたり、会いたいと思っていた人に偶然会えたり、人と人との縁が生まれる不思議で素敵な空間になりました。
▼左/武蔵五日市駅前で開催『五市マルシェ』(販売会)。右/あきる野市POUNDさんで開催『花*花*めがね』展(展示販売会)の様子
一つひとつ違うのが魅力。一期一会を大切にしてほしい
インターネットなど、イベントや展示会以外で販売はしないのですか?
ありがたいことに「作品が欲しい」とネット販売等のお問合わせをいただくことがあります。ですが私が扱うものは自然のもの。植物のエネルギーって手にとって感じられる相性のようなものがあると思うので、作品との出会いを大切にしてほしいと思っています。ですので、直接手にとっていただける形で販売することを大切にしています。
作品を作る際も、同じデザインをいくつも作りますが自然の素材なだけにその表情は一つひとつ違います。「このコ大きいわねー」と素材と対話したり、お客様が身につけてくださっているのを見た時は「久しぶりー」とか「色がアンティークになったわね」なんて再会に嬉しくなります。そんな気持ちで一つひとつ作っています。
▼アクセサリーの台紙には植物の名前と花言葉を記載。心穏やかに過ごせるような花言葉を選びアクセサリーに込める
面白い!「できると思います!」と言うことが、新たな展開に繋がっています
あきる野市養沢にある苔庵(コケア)というカフェのオーナーに「苔でも作れる?」と聞かれ、作ったことがないのに「できます!」と(笑)。できると言ってしまったからにはやらねば!と試行錯誤をして作ったのが苔アクセサリーです。小さな苔を一つずつバランスよく並べるのが大変でした。その後、その作品を見た作家さんからお声がけいただき、粘土で作ったお家をレジンに閉じ込める、新たなアクセサリーをコラボしました。
いつも思っているのは「私が作るアクセサリーがコミュニケーションのきっかけになればいい」ということ。レンコンのピアスをつけていて「これ本物のレンコンです」って言ったら話題になりますよね。
例えば、私のピアスを見たイベントでご一緒したラーメン屋さんに「エビは入る?」って聞かれたので、その時も「できます!」と(笑)。いつものようにドライヤーをしているときにアイデアが降りてきて、鯛の形にしたレジンに小エビ・シラス・ゴマ・海苔をとじ込めたらすごくかわいい作品になりました。
今後は、どんなことに挑戦していきたいですか?
今後はもっとアップサイクルアクセサリーに力を入れたいですね。川の清掃活動を積極的に行っている「秋川リバークリーンナップ」の主催者の方と出会い、「川のゴミでもアクセサリーを作れるかもしれません!」と私からご提案させていただいたところ、主催者の方も同じ様なビジョンを持たれていたため、ゴミのアップサイクルアクセサリー作りに挑戦することに。アクセサリーを通して川の保全活動に貢献したいと思い、川で拾ったゴミのレジャーシートを加工して作ったアクセサリーや、川で拾った錆びた釘を使ったアクセサリーなどを製作中です。
また、ワークショップで教えて欲しいといったお誘いもありますが、教えること自体は好きなので、悩むものの今は自分の作品作りに集中しようと思っています。
常に自分のアクセサリー作りで何かできないか、何ができるかを考え動くことが、新たな縁につながっていると感じています。主人と出会い、檜原村と出会い、お豆腐屋さんや大豆や植物との出会いから、人や社会との対話や出会いにつながりました。これからまたどんな出会いがあるのか、とても楽しみにしています。
※2022年1月時点の内容になります。
プロフィール |
髙木美穂さん 1982年生まれ、青森県出身。 2006年弘前大学教育学部生涯教育課程美術科 卒業。 東京都多摩群檜原村出身のご主人と出会い結婚。家業のお豆腐屋さんを手伝いながら趣味でハンドメイドを楽しむ。2011年地元のバザーでの作品販売をきっかけにハンドメイド活動を本格的にスタート。家業・家事・育児と両立させながらイベント等へ参加。2021年10月約5ヶ月間の病気療養を経て活動を再開。12月にはPOUNDさんにて『花*花*めがね』展(展示販売会)の開催を果たす。ハンドメイドを通じて環境保全やリサイクル、福祉の面へアプローチを拡げる。イベント出店を中心に活動しながら、今後の目標の一つ「親子で楽しむ自然の中で自然の物を使った遊びの空間」の開催を計画。 (プロフィールは記事掲載時のもの) |
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